日経サイエンス  2011年8月号

特集:悪魔が開く新たな扉

マクスウェルの悪魔現る

C. H. ベネット(IBMワトソン研究所) B. シューマッカー(ケニヨン大学)

 水は高きから低きへと流れ,太陽は東から上って西へ沈む。それが自然界の理(ことわり)だ。もし反対のことが起きたら,それは神の御業(みわざ)に逆らう悪魔の所業。19世紀スコットランドの傑出した物理学者マクスウェルが考え出した熱力学に関する思考実験も,当初は自然の理に反すると考えられ,「マクスウェルの悪魔」と呼ばれた。
 この思考実験は物理学的に非常に深い内容を秘めていたため,世界の研究者を“悪魔的”に魅了し続けた。提唱から110年後,その謎が解かれ,この悪魔が物理的に実現可能なことが理論的に明らかにされた。
 とはいえ原理的にできるのと,実際にできることの間には大きな開きがある。それからさらに30年がすぎ,日米の研究グループがそれぞれ独自の工夫を凝らしてマクスウェルの悪魔を実験室で作ることに成功した。
 日米の2人の悪魔はもちろん,いずれも自然の理に反してはいない。長い間反すると思われていたのは,悪魔が記憶する「情報」の物理的な意味に我々が気づかなかったためだ。実験室に現れた悪魔は,それを具体的な形で教えている。

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著者

Charles H. Bennett / Benjamin Schumacher

ベネットはIBMフェロー。研究室はニューヨークのワトソン研究所にあるが,常に世界中を飛び回っている。マクスウェルの悪魔のパラドックスを,メモリー消去に着目して解決した提案で知られる。量子暗号と量子テレポーテーションの発明者でもある。シューマッカーはケニヨン大学教授。1980年代から量子情報の理論研究に取り組み,量子情報の基本単位「量子ビット」を提唱した。2人は情報が持つ物理的な側面に深い関心を抱いている。

原題名

Demons in the Lab(日経サイエンス オリジナル書き下ろし)

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