日経サイエンス  2011年6月号

特集:マグニチュード9.0の衝撃

立ち直る力のメカニズム

G. スティックス(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

 家族を失い,家を失い,職を失って失意の底に沈んでも,多くの人はいつまでも落ち込んではいない。数カ月も経てば,また笑うことができるようになる。大災害や事件・事故によるトラウマによって強いストレスを受けた時に,そこからの回復を促す仕組みが人間の脳に生来備わっていることが,脳神経科学の研究からわかってきた。

 悲嘆からの立ち直りを促す方法はあるのだろうか? いずれは心を回復させる薬が出てくるかもしれないが,まだかなり先だろう。一時はトラウマを受けた直後に行う特別な心理療法が推奨されたが,最近では効果より弊害の方が懸念されるようになっている。現在行われているのは,心の自然な回復を促す実際的なサポートだ。災害であれば被災者の食料や避難場所を確保し,どんな支援が受けられるのかを伝えて,安心できる環境を作る。また心の回復プロセスについての情報を提供し,医師による治療が必要かどうか,自分で判断できるよう手助けする。

 最悪のことが起きることはある。だが私たちには,立ち直る力があるのだ。

 

 

再録:別冊日経サイエンス183「震災と原発」

原題名

The Neuroscience of True Grit(SCIENTIFIC AMERICAN March 2011)

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