日経サイエンス  2011年4月号

研究するロボット

R. D. キング(英ウェールズ大学アベリストウィス校)

 科学的発見の達成を自動化することは可能だろうか? 実験を自動化するという意味ではない。新たな科学的知識を発見できる機械を作ることは可能か,つまり“科学者ロボット”を作れるか,という意味だ。私は共同研究者とともに,その開発に10年ほど取り組んできた。

 

 主な動機は2つある。まず,科学をよりよく理解すること。もう1つは,研究をより生産的かつ経済的なものにすることだ。科学上の問題には非常に複雑で膨大な研究を必要とするものがあり,それらすべてを実行するには,人間の科学者だけではとても手が足りない。これを解決する最も有望な方法が,自動化だ。

 

 科学向けのコンピューター技術は着実に進んできた。例えばDNA配列解析や薬剤候補物質のスクリーニングなどに実用化しているラボラトリーオートメーション装置が代表例だ。それほどには知られていないが,コンピューターによってデータ解析が自動化され,独自の科学的仮説が生み出され始めている。例えば化学の分野では,機械学習プログラムが新薬の設計を助けている。

 

 科学者ロボットの目標は,これらの技術を組み合わせて科学研究の全プロセスを自動化すること,つまり仮説を立て,それらを検証するための実験を考案・実行し,実験結果を解釈し,新知識が見つかるまでこのサイクルを繰り返すという過程すべてを自動化することだ。

 

 私たちが開発した「アダム」という試作機は,酵母の遺伝子とその機能について仮説を立て,それを検証する実験を設計し,実行できる。人工知能と推論,自動装置を使い,ある酵素をコードしている酵母の遺伝子を3つ発見した。人間の科学者はこの酵素の遺伝子を特定できていなかった。

 

 アダムは人間による入力と介入を必要としているので,まだ科学者とは呼べないという見方もある。しかし,人間の科学者とロボット科学者が力を合わせれば,どちらか単独の場合よりも多くの成果が上がるだろう。

 

 

再録:別冊日経サイエンス216 「AI 人工知能の軌跡と未来」

著者

Ross D. King

英ウェールズ大学アベリストウィス校のコンピューター科学の教授。コンピューター科学を化学や生物学に適用する方法など,「科学の科学」を研究している。

原題名

Rise of the Robo Scientists(SCIENTIFIC AMERICAN January 2011)

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