日経サイエンス  2010年9月号

地球進化の謎を解くマントルD”層

廣瀬 敬(東京工業大学)

地震波の研究から,地球は中心からコア,マントル,地殻の順番で層を成す玉ねぎ状構造をしていることがわかっている。マントルはさらにいくつかの層に分かれているが,これは,深くなるにつれて圧力が増し,温度も高くなるので,マントルを構成する鉱物の結晶構造が変わるからだ。グラファイトとダイヤモンドがまったく別の物質であるように,化学組成が同じであっても結晶構造が変わると,熱伝導率などの性質も大きく変わる。

 

深さ660~2900kmの下部マントルは長年にわたり同じ鉱物が占めていると考えられてきた。ペロフスカイトと呼ばれるその鉱物は,元素がみっちりとつまった非常に密度の高い結晶構造をしていて,そこからさらに密度の高い状態になるとは考えにくかったからだ。しかし,地震波のデータは深さ2600km付近に層の境界があることを示していた。

 

著者たちのグループは,2600kmよりも深い環境に相当する120万気圧・2500度の超高圧高温環境を実験室で再現することに成功した。その条件下ではペロフスカイトも原子の配列が変わり,さらに密度の高い結晶構造になることを実証した。ポストペロフスカイトと名付けたこの鉱物こそ,地球の初期進化の謎を解くカギだった。

 

ポストペロフスカイトは効率よく熱を伝える性質がある。これはコアの熱をマントルに伝える,つまり,コアを効率よく冷ます働きがあるということを示している。地球の誕生直後は,高温すぎてポストペロフスカイトは存在できなかったと思われる。だが,いったん登場すると,コアの熱をマントルに伝えることでマントル対流が盛んになった。コアも冷め始めて,中心部は液状から固体のコアへと変化した。この固体コアの登場と活発になったマントル対流は,地球の初期進化に大きな影響を及ぼした。

著者

廣瀬 敬(ひろせ・けい)

東京工業大学で高圧地球科学の教授を務めている。南極大陸や潜水艇で深海底へ行くことを夢見て,東京大学で地質学を専攻した。現在の研究は室内で実験的に超高圧超高温状態を作り出し,地球や惑星の深部を調べることだ。しかし,南極や深海底へ行く夢を捨ててはいない。なぜ,地球深部の研究を始めるようになったかについては,2010年7月号の「フロントランナー」を参照。この記事はSCIENTIFIC AMERICANに掲載されたものを本人が訳している。2007年1月号の日経サイエンスに「ついに見えてきた地球コア直上の世界」を執筆したときに,編集部から「読者の中にはマグマとマントルを混同して,マントルを液状と勘違いしている人がいるはずだ」と言われ半信半疑でいたが,今回の記事でも73ページのマントルの絵が当初案では液状のように描かれていたことに愕然としたという。

原題名

The Earth's Missing Ingredient(SCIENTIFIC AMERICAN June 2010)

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