日経サイエンス  2010年7月号

特集:臨界点に迫る地球

8人の専門家が示す処方箋

 その線を踏み越えたら地球が居住不能に——地球規模の主な環境変化について,そうした「閾値」が試算された。すでに限界値を上回った項目が3つある。
 西暦1800年に10億人だった世界人口は,現在は70億人近い。過去50年だけで2倍以上になった。生活が豊かになったこともあり,私たちの資源消費も 驚異的な水準に達した。過去50年で世界の食物消費と淡水消費は3倍以上に,化石燃料消費は4倍になった。人類は地球上に光合成によって生み出されたもの の1/3から半分を使っている。
 この勝手放題の成長は,環境汚染を局地的問題からグローバルな打撃に拡大することにもなった。成層圏オゾンの減 少と温室効果ガス濃度の高まりが明白な例だが,ほかにも多くの悪影響が生じている。私たちはいま,資源に限りがあり廃棄物吸収能力も限られた“手一杯の世 界”に住んでいる。これまでのやり方を修正しなければ,人類に惨憺たる結果をもたらしかねない破滅的変化が生じるだろう。
 何がそうした変化を引 き起こし,どうすればそれを避けられるのか? スウェーデンにあるストックホルム・レジリアンス・センターのロックシュトレーム(Johan Rockstroem)が率いる国際科学チーム(私も一員)が最近,より大きな問いに取り組むことによってその答えを探った。「地球環境を人類史上かつて ない危険な領域に押しやる“臨界点”に私たちは近づきつつあるのだろうか?」という問いだ。
 私たちは物理的・生物学的システムに関する多くの学 際研究を調べ,人間の暮らしを支えている地球の力を崩壊させうる9つの環境変化を特定した。そして,それらについて「境界」を設定した。そこまでの範囲な ら人類が安全に生きていけるという限界値だ。9つの変化のうち7つについては,単一の数値で科学的に定められた明確な境界(もちろんいくぶんかの不確実性 を含む)がある。それらのうち3つ,気候変動と海洋酸性化,成層圏オゾン減少に関する境界は臨界点を示し,他の4つ(生物多様性の損失,窒素汚染とリン汚 染,淡水利用,土地利用)は回復不能な劣化の始まりを意味する。残り2つの変化(エアロゾル大気汚染と全世界の化学物質汚染)はまだ十分に研究できておら ず,数値は未設定だ。
 私たちの解析では,すでに3つの変化が境界を超えている。生物多様性の損失,窒素汚染,気候変動の3つだ。そして,その他 の変化もすべて,境界へと向かっている。個々の限界値は微調整の余地があるだろうし,今後新たに加わるものもあるかもしれないが,ここで示した一連の境界 は最も危うい環境状態をまとめた要約であり,危機管理を考えるうえでの枠組みを提供してくれる。

「8人の専門家が示す処方箋」の分野と著者は以下の通り

 

【生物多様性の損失】
G. C.デイリー(Gretchen C. Daily)
スタンフォード大学教授(環境科学)

 

【窒素循環】
R. ハウワース(Robert Howarth)
コーネル大学教授(生態学・環境生物学)

 

【リンの循環】
D. A. バッカーリ(David A. Vaccari)
スティーブンス工科大学土木・環境・海洋工学科長

 

【気候変動】
A. C. モリス(Adele C. Morris)
ブルッキングス研究所・気候エネルギー経済学プロジェクト政策ディレクター

 

【土地利用】
E. F. ランバン(Eric F. Lambin)
スタンフォード大学およびルーヴァン大学(ベルギー)教授(地球システム科学)

 

【海洋酸性化】
S. C. ドニー(Scott C. Doney)
ウッズホール海洋研究所シニアサイエンティスト

 

【水利用】
P. H. グライク(Peter H. Gleick)
パシフィック・インスティテュート理事長

 

【オゾン層破壊】
D. W. フェイー(David W. Fahey)
米海洋大気局(NOAA)の物理学者

 

 

再録:別冊日経サイエンス198「激変する気候」

原題名

Solutions to Environmental Threats(SCIENTIFIC AMERICAN April 2010)

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