日経サイエンス  2010年6月号

生物が作った多様性 鉱物進化論

M. ヘイゼン(カーネギー研究所)

 現在,地球上にある鉱物は,わかっているだけで4400種類。こんなに種類が多いのは地球だけで,太陽系のほかの惑星ではずっと少ない。一体なぜだろうか。実は鉱物の半数以上は,地球に生物がいたために誕生したのだという。

 

 地球の数十億年の歴史の中で,地球はその姿を劇的に変えてきた。そのたびに新たな鉱物の生成プロセスが生じ,鉱物が多様化してきた。

 

 宇宙の始まりであるビッグバンの後,初めて宇宙空間に現れた鉱物は,ダイヤモンドやグラファイトの微細結晶だったようだ。ほどなく炭化ケイ素や窒化チタンなどができ,これら10数種類の原始鉱物を含む原始塵の玉ができた。

 

 46億年前に太陽が燃え始めると,近くの塵の中で元素が溶けて混ざり合い,鉄ニッケル合金や硫化物などが生成した。これらの鉱物を含んだ微粒子が微惑星に降り積もると,部分的に溶けて鉱物ごとに冷え固まり,タマネギのような構造ができた。また氷が溶けて水になり,さまざまな化学反応を引き起こして,250種類ほどの鉱物が誕生した。

 

 やがて原始地球が微惑星テイアと衝突し,一部が吹き飛ばされて月ができた。このころ,地球は大部分が玄武岩で覆われて真っ黒だった。岩の一部が溶けて再度固まるプロセスを繰り返し,花崗岩が大量に生成。また一般的な鉱物の結晶には取り込まれにくい不適合元素が凝集し,500種類以上の新たな鉱物ができた。地中の高圧下で形成された独特な鉱物もプレートテクトニクスによって地表に運ばれ,鉱物は1500種類ほどに増えた。

 

 だが鉱物の種類が爆発的に増えたのは,生命が誕生してからだ。約20億年前に光合成する藻類が登場し,大気中の酸素濃度が一気に上昇。黒い玄武岩に含まれる鉄イオンが酸化し,地球は赤く「錆びた」。すでに存在していた鉱物に酸化作用,水和作用,風化作用などが働き,2500種類以上の新たな鉱物が誕生した。

 

 その後10億年ほどの間は興味深いことは何も起こらなかったが,じきに地球の1カ所に集まっていた超大陸がプレートテクトニクスによってバラバラになり,気候変動を誘発。地球は雪玉と温室の間を行き来した。温暖化が進行すると海の底に炭酸塩岩ができ,温室状態の時は風化作用によって粘土鉱物が急増した。微生物や動物も増えて,その骨が礁性石灰岩を作った。

 

 4億年前ごろに植物が陸に進出し,地上に緑が広がった。植物や菌類が現れ,岩石の生化学分解が加速。粘土鉱物の生成速度が上がった。動物の種類が増えて地球は現在に近い姿になり,鉱物の種類と分布も現在の状態に近づいた。

 

 鉱物を時間軸でとらえる鉱物進化のアプローチは,研究に新たな切り口を開く。進化がどこまで進むかは,星によって異なる。水星や月のような乾燥した小さな星では鉱物の種類は少なく,小さくても水のある火星ならもう少し多い。内部に熱がある金星は花崗岩の形成まで到達し。生命があれば格段に鉱物種類が多くなる。鉱物を手がかりに,ほかの天体の生命の徴候を探したり,星の発展段階を調べることもできそうだ。

著者

Robert M. Hazen

カーネギー研究所地球物理学研究所の上級研究員で,ジョージ・メイソン大学の地球科学教授。1975年にハーバード大学で地球科学のPh.D.取得。350本におよぶ科学論文,『Genesis: The Scientific Quest for Life’s Origin』をはじめ20冊の著作がある。またラジオやテレビ,公開講座,ネット動画などを通して一般向けにわかりやすく科学を解説している。最近は特に生命の起源に鉱物が与えた影響に関心を持っている。カリフォルニアにある強アルカリ性の湖,モノ湖で見つかった微生物が作る珍しい鉱物「ヘイゼナイト」は,同氏にちなんで名付けられた。

原題名

Evolution of Minerals(SCIENTIFIC AMERICAN March 2010)

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