日経サイエンス  2010年5月号

燃費はもっとよくなる 高効率エンジンへの道

B.ナイト(ホンダR&Dアメリカ)

 自動車エンジンのハードとソフトを変えれば,燃料効率はずっとよくなる。エンジンの主なエネルギー損失は無駄になっている熱とエンジン内の摩擦だが,ガソリン直噴や可変バルブタイミング,気筒休止などの技術によって,これを減らすことができる。

 

 ガソリン燃焼によるエネルギーの約60%は熱として失われており,この損失のざっと半分はエンジンで,残り半分は排気を通して失われる。さらに15~25%が,エンジンの摩擦と,アイドリングや減速時などエンジンが有用な仕事をしていないときに消費される燃料によって失われている。エンジンの摩擦損失には「ポンプ損失(ポンピングロス)」が含まれる。部分的に閉じたスロットルバルブを通して気筒内に空気を引き込む際に生じる損失だ。

 

 残りがエンジンの出力となる。その半分から2/3(つまりガソリンによる全エネルギーの10~15%)は車両の動きを妨げているものを克服するのに使われる。動きを妨げているのは,慣性と空気力学的な抵抗,タイヤと路面の間の摩擦だ。そして残り(ガソリンの全エネルギーの5~10%)は動力伝達系とアクセサリーで消費される。

 

 効率はこれらすべての部分で改善でき,小さな前進でも相当な効果が生じうる。例えば摩擦損失を1%減らすと燃費は4~5%改善する。今後10年間に広く実用化しうる非常に有望なアプローチがいくつかある。それらをまとめて表に示し,一部は図示した。

 

 その先の将来になると,エンジンの効率向上はシステム最適化に負うところが大きくなるだろう。未来の“スーパーエンジン”もいろいろ考えられるだろうが,例えばこの記事で挙げた先進技術を組み合わせると,ガソリン直噴式で,カムレスの連続可変タイミングバルブを備え,ハイブリッド電気モーターとターボチャージャーを組み合わせた設計が考えられる。

 

 このように最適化された車のエンジンは,サイズが現在のエンジンの半分から1/3になり,摩擦損失が減るとともに重量は軽くなるだろう。効率は大きく高まるが,非常に複雑でコストも高くなる。どんな速度と負荷状況にあっても最適な運転戦略を決定し,運転モードを切り替えつつエンジンを制御するようなソフトウエアを実装することが,重要な課題となるだろう。

 

 長い目で見れば,そして石油供給の減少が避けられないことを考えれば,世界はガソリンを代替する実際的な選択肢をできるだけ数多く検討する必要がある。だが,そうした未来カーに目を奪われて,現在のエンジンの効率を改善する努力がないがしろにされてはならない。自動車産業はエンジンの効率を改善できるし,改善すべきなのだ。

著者

Ben Knight

ホンダR&Dアメリカ(カリフォルニア州トーランス)の自動車工学担当副社長。低排出のガソリン車,ハイブリッド車,代替燃料車(電池や天然ガス,燃料電池で駆動するものなど)の開発を監督している。カリフォルニア大学の全学研究プログラム「トランスポーテーション・サステナビリティー」のアドバイザーでもある。

原題名

Better Mileage Now(SCIENTIFIC AMERICAN February 2010)

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