日経サイエンス  2010年5月号

クジラが育む深海の奇妙な生物

C. T. S. リトル(英リーズ大学)

深海底に沈んだクジラの死骸はヌタウナギ類や深海ザメ,エビやカニに食べられる。しかし骨ばかりになっても,その骨を間接的に栄養源とする各種の貝やゴカイなどが集まり,「鯨骨生物群集」が形成される。

 

鯨骨生物群集のベースとなるのは鯨骨に豊富に含まれる脂質。この脂質を嫌気性細菌が食べて分解すると硫化水素が発生する。鯨骨生物群集を構成する貝などは体内に化学合成細菌を共生させ,その細菌が硫化水素を摂取して有機物を生み出す。この有機物が各種の貝やゴカイなどのエサとなる。化学合成細菌を宿した深海生物で構成される生物群集は,冷水や温水などの湧出域,熱水噴出孔,沈木などでも見られ,これらの生物群集と鯨骨生物群集との間で生物が行き来している可能性がある。

 

1億年以上前,陸上で恐竜が闊歩していた時代,海には首長竜など大型の海生爬虫類が生息していた。こうした海生爬虫類の死骸にも鯨骨生物群集と同じような生物群集が存在していたらしい。

 

 

再録:別冊日経サイエンス192 「不思議の海」

著者

Crispin T. S. Little

英リーズ大学上級講師(古生物学)。ここ14年間,深海底の熱水噴出孔や湧出域,鯨骨に形成される生物群集の進化を研究してきた。太平洋の水深2500mの深海底にある活動的な噴出孔の潜水調査が長年の夢だったが,最近,潜水調査船アルビン号に搭乗してそれを実現した。

原題名

The Prolific Afterlife of Whales(SCIENTIFIC AMERICAN February 2010)

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