日経サイエンス  2010年3月号

対談

海底下に眠る地球の歴史を掘り起こす

倉本真一(海洋研究開発機構) 茂木健一郎(ソニーコンピュータサイエンス研究所)

 静岡県清水港に停泊中の「ちきゅう」は,白く輝く巨大な威容を見せる。海底下5~6kmを掘り抜いてマントルの実物を取ってくることができる,日本が誇る世界最強の科学掘削船だ。国際共同で進めている「統合国際深海掘削計画(IODP)」の主力を担う。脳科学者の茂木健一郎氏が同船に乗船し,その掘削のしくみから,実際に取ってきた地層サンプルまでをつぶさに観察した。研究を取りまとめる海洋研究開発機構の倉本真一次長と対談し,「ちきゅう」の全貌を明らかにする。

 

 海底の地殻は中央海嶺で生まれ,マントル対流に乗ってゆっくりと移動する。その間,海中のプランクトンや火山の噴火で飛び散った灰とがれきなど,時代によってさまざまな堆積物が降り積もっていく。海底に眠る地層には,いわば過去数千万年にわたる地球の歴史が記録されているのだ。地層を縦に掘り抜いて調べれば,そうした地球の歴史が明らかになる。堆積物の重なり方から水の流れがわかり,その組成から堆積物の由来がわかる。生物の跡から水深が推定できるし,プランクトンの死骸から年代ごとの海水温をつきとめ,気候変動のグラフを描くこともできる。

 

 「ちきゅう」はそうした海底の地層サンプルを取ってくるためだけに建造された専用船だ。中央には巨大なやぐらがそびえ立ち,掘削用のパイプを1000本以上つなぎながら吊り下げ,海底の奥深くに到達する。船上で真下から見上げる掘削やぐらは,青空に吸い込まれるように高い。本稿では,「ちきゅう」の最新鋭の掘削システムや,厳しくも楽しい船での暮らしを,豊富な写真とともに紹介する。また「ちきゅう」が紀伊半島沖の海底から取ってきた地層のサンプルから,日本近海の2000万年にわたる歴史を読み解く。

 

 

「茂木健一郎の科学の興奮」に収載

ゲスト:倉本真一(くらもと・しんいち)
海洋研究開発機構地球深部探査センターIODP推進・科学支援室次長。1962年,東京都生まれ。富山大学,金沢大学で地質学を学ぶ。その後東京大学海洋研究所で日本海の地殻構造を研究し,初めて科学掘削船に乗船する。91年に理学博士号を取得。ハワイ大学,通商産業省工業技術院地質調査所(現産業技術総合研究所)を経て2002年から現職。日本地質学会理事。

ホスト:茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)
はソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年,東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了,理学博士。理化学研究所などを経て現職。東京工業大学大学院客員教授。専門は脳科学,認知科学。「クオリア」をキーワードに脳と心の関係を研究している。著書に『脳とクオリア』(日経サイエンス社),『脳と仮想』(新潮社)ほか多数。

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