日経サイエンス  2009年10月号

特集:量子力学の実像に迫る

存在確率マイナス1 天才アハラノフの予言

古田彩(編集部)

 物理学者アハラノフの名は知らなくても,「アハラノフ・ボーム効果」という言葉は聞いたことがあるかもしれない。1980年代に外村彰が観測し,ノーベル賞級の成果として注目を集めた。50年前にこの効果を,量子力学の黎明期を築いたボームとともに予言したのが,当時20代だったアハラノフだ。

 

 後年,アハラノフはもう一つの予言をした。これまで「決して見ることはできない。見たら壊れてしまう」と誰もが信じてきた量子力学の世界を,壊れないようにこっそりと見る方法があるというのだ。しかも,ある種の干渉計の中をこの方法で見ると,粒子が特定の場所にある確率が「マイナス1」になることがある。確率というのは本来0と1の間の値しかとり得ず,アハラノフの予言は一見不可解だが,このほど日本とカナダのチームが,それぞれ実験で確かめた。

 

 本稿は「特集:量子力学の実像に迫る」の第1弾。アハラノフが疑問符を突きつけた,今日の量子力学の”常識”について解説する。量子力学が語る世界とはどんなものか,そして,なぜ見ることはできないと考えられるようになったのか,その歴史的経緯を振り返る。またアハラノフの予言を巡る,近年の動きを報告する。

 

 量子力学の固定観念を覆したアハラノフの予言については,第2弾のアハラノフへのインタビュー「宇宙の未来が決める現在」,存在確率マイナス1を観測した実験については,第3弾の大阪大学の井元らによる解説「量子の”開かずの間”をのぞき見る」をお読み頂きたい。

 

 

再録:別冊日経サイエンス186 「実在とは何か?」

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