日経サイエンス  2009年7月号

インフルエンザ,エイズ,エボラ… 未知の感染症を防げ

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N. ウルフ(スタンフォード大学)

 チンパンジーがアカコロブスというサルを狩り,その生肉や内臓を食べることは知られている。このようにチンパンジーなどの動物や人間の狩りが架け橋となって,ウイルスが獲物から捕食者に移動することがわかっており,エイズウイルス(HIV)のパンデミック(世界的流行)はこうして始まった。サルからチンパンジーに,その後チンパンジーからヒトに移動したのだ。

 

 HIVが蔓延してしまった今となっては,HIVのない世界など想像しにくいが,パンデミックは避けられないものではなかった。1960年代から1970年代に,アフリカで新興感染症の前兆をつかむ調査が行われていれば,何百万もの人々が感染するずっと前にHIVの出現がわかったかもしれない。一歩先んじたスタートを切っていれば,HIVの蔓延を抑制できたろう。

 

 動物から生じた病気はエイズだけではない。ヒトの感染症の半分以上は動物に起源がある。いくつか例を挙げれば,インフルエンザ,新型肺炎SARS,デング熱,エボラ出血熱などがある。現在は車や飛行機によって遠く離れた人々が互いに行き来しているため,新興感染症が短期間でパンデミックに至る。HIVのように野生動物から直接感染するものもあれば,日本脳炎ウイルスやいくつかのインフルエンザウイルス株のように,野生動物から家畜に,それからヒトへと段階的に感染するものもあるが,いずれも急拡大する恐れがある。

 

 こうした脅威に立ち向かうため,野生動物や彼らと頻繁に接触する人々を監視し,新しいウイルスや微生物の出現や,病原体の活動の変化を調べるプロジェクトが始まった。こうした監視ネットワークを通して,パンデミックを未然に防ぐのに必要な早期警報を出せるだろう。

 

 

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再録:別冊日経サイエンス188 「感染症 新たな闘いに向けて」

著者

Nathan Wolfe

スタンフォード大学でヒトの生物学を教えるローリー I. ローキー客員教授であり,世界ウイルス予測イニシアチブの代表。1998年にハーバード大学で免疫学と感染症の博士号を取得した。米国立衛生研究所の所長パイオニア賞,米ナショナルジオグラフィック協会の新人探検家賞を受賞。現在はアフリカとアジアの11カ国で活発な研究と公衆衛生プロジェクトを行っている。

原題名

Preventing the Next Pandemic(SCIENTIFIC AMERICAN April 2009)

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