日経サイエンス  2008年10月号

ダンスの神経科学

S. ブラウン(マクマスター大学) L. M. パーソンズ(シェフィールド大学)

 音楽が聞こえると,足で拍子をとったり,身体を揺らしてリズムをとる人は多い。こうした動きは無意識に生じる本能的なものだが,これができるのは動物界広しといえども人間以外にはいない。リズムをとること,音に合わせて踊ることは,ヒトが進化の過程で獲得した希有な特徴なのだ。

 

 ダンスをしているとき,脳はどんな指令を出しているのだろうか。神経科学者である著者らは,ダンサーが音楽に合わせてタンゴの基本ステップを踏んでいる時の脳の活動を陽電子断層撮影法(PET)で調べた。その結果,頭頂葉にある特定部分の活動が高まることがわかった。その場所には,身体がどのような姿勢をとっているのか示す「運動感覚地図」が収められていると考えられる。

 

 さらに,ダンサーがステップを踏むと,言語をつかさどる左半球の「ブローカ野」に対応する右半球の領域が活性化することも突き止めた。ブローカ野は言語とともに,手話など手の表現にもかかわる領域だ。ダンスは典型的なジェスチャー語と考えられることから,おそらく初期言語としての役割があったと推察される。言語と手,さらに脚の動きの関連はダンスが表象的コミュニケーションとして始まったことを示す裏付けになるかもしれない。

著者

Steven Brown / Lawrence M. Parsons

ブラウンはマクマスター大学心理・神経・行動科学科のニューロアートラボ室長を務める。発話や音楽,身振り,ダンス,情動など,ヒトのコミュニケーションの基盤をなす神経活動を研究している。パーソンズは英国シェフィールド大学心理学科教授。神経科学的な側面から,デュエット,会話の中の掛け合い,演繹的推論などを担う脳の働きを研究している。

原題名

The Neuroscience of Dance(SCIENTIFIC AMERICAN July 2008)

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ブローカ野内側膝状体小脳楔前部運動感覚地図