日経サイエンス  2008年9月号

今をとるか,未来をとるか 温暖化対策の倫理

J. ブルーム(オックスフォード大学)

 7月に開催された北海道洞爺湖サミット(先進国首脳会議)は,地球温暖化問題について「2050年までに二酸化炭素など温暖化ガスの排出を半減する」という長期目標で合意した。しかしこの目標には「経済的な負担が大きすぎる」と反対する声もある。温暖化による影響は,私たちの世代よりはむしろ子どもや孫の世代で深刻化する問題だ。そもそも地球温暖化対策のように数十年,数百年といった長い期間で考えるべき問題については,誰がそのコストを負担すべきなのだろうか。

 

 借金をしたり預金をすると利子が発生するのは,将来の1万円より現在の1万円の方が価値があると広く合意されているからだ。これはつねに経済が成長しつづけ,人間が豊かになりつづけるということが前提になっている。一方で,温暖化が進むとして,事態がより悪化するのは将来の話だ。だとすれば,将来の豊かな人々のために,現在の私たちが重いコストを負わなければならないのはなぜかと思う人がいても不思議ではない。

 

 だが,将来の人々は本当に豊かなのだろうか。温暖化にともなって人々の生活環境が損なわれ,経済成長がマイナスになることもありうる。倫理的にも,現在の人々と将来の人々の間で不公平が生じることを認めてよいのかどうかは意見が分かれている。地球温暖化対策において私たちがどのような選択をすべきかは,こうした倫理的な問題も考慮したさらなる議論が必要になるだろう。

著者

John Broome

オックスフォード大学ホワイト倫理学教授,コーパスクリスティカレッジ・フェロー。元ブリストル大学経済学教授。英国学士院,英国エディンバラ王立学院,スウェーデン王立科学アカデミー外国人会員。リーバーヒューム・メジャー・リサーチ・フェロー。著書に「Weighing Goods」「Counting the Cost of Global Warming」「Ethics out of Economics」「Weighing Lives」など。

原題名

The Ethics of Climate Change(SCIENTIFIC AMERICAN June 2008)

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