日経サイエンス  2008年7月号

最も精確なものさし 光コム

S. カンディフ J. イー J. ホール(JILA)

 数十年にわたって最も正確な時計とされてきたセシウム原子時計を超える「光時計」の実現が,新種のレーザー光の出現で現実味を帯びてきた。その光は,周波数が髪をとかす“櫛(コム)”のような形に分布するため,「光コム」と名づけられている。

 

 光コムは100兆分の1秒ほどの極めて短い光パルスを,これまた数ナノ秒(ナノは10億分の1)という短い時間ごとに繰り返し発生させることでできる。櫛の“歯”(モード)は厳密に一定の間隔で並び,それはパルスを発する時間間隔で決まる。典型的な光コムで可視光全域をカバーしているとすれば,歯の数は約40万本だ。この歯をものさしの目盛りとして光周波数計測に利用する。

 

 光は周波数が高く,その測定は容易ではなかった。光コムでレーザー光の周波数を測定する方法は次の通り。レーザー光を光コムの光に重ね合わせると,コムの中でレーザーの周波数に最も近いモードとの間で“うなり”(ビート)が生じる。このビート周波数からレーザー光の周波数を求めるわけだ。ビート周波数は低く,光コム開発以前の方法で正確に測定できる。また,光コムのモード周波数を知るために必要な情報も,広帯域の光コム発生技術の確立で測定可能になった。

 

 光の周波数と時間を高精度で測定する光コム技術は,光時計のほか,超高感度化学検出器やレーザーによる化学反応の制御,光ファイバーを用いた大容量光通信,より精密な衛星利用測位システム(GPS)など,幅広い応用が期待されている。精度の向上が新しい世界を私たちに見せてくれる。

 
 

再録:別冊日経サイエンス202「光技術 その軌跡と挑戦 」

著者

Steven Cundiff / Jun Ye / John Hall

3人は異なるバックグラウンドを持ってフェムト秒光コムの開発と応用の共同研究を行っている。ホールは40年以上にわたり,超高安定連続発振レーザーを用いた精密測定の指導者であり続けている。また,光コム技術の開発を含む功績で,2005年のノーベル物理学賞を受賞した。イーは15年ほど前に超高安定連続発振レーザーを中心に研究活動を始めたが,光コム技術の進展以降,超高速科学分野全般に重要な貢献をしている。カンディフは10年前に共同研究に加わる以前,超高速科学の分野,主にモード同期レーザーで分光を研究していた。3人はともに米国立標準技術研究所(NIST)とコロラド大学ボールダー校の共同研究所JILAの特別研究員だ。

原題名

Rulers of Light(SCIENTIFIC AMERICAN April 2008)

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