日経サイエンス  2008年5月号

特集:革命前夜の物理学

日本の進む道

中島林彦(編集部)

 筑波山を間近に望む高エネルギー加速器研究機構(茨城県つくば市)は世界の素粒子研究者の間でKEK(ケック)と呼ばれている。欧州合同原子核研究機構(CERN)や米国立フェルミ加速器研究所と並ぶ素粒子物理学研究の世界の中心地だ。広大な会議スペースを持つ執務室で鈴木厚人機構長は静かに話し始めた。「私たちは今,進むべき道を決断する時期に来ている」

 素粒子物理学は激動の時代を迎えようとしている。長らく待たれていたCERNの大型ハドロン衝突型加速器LHCが今夏にも稼働,ヒッグス粒子や超対称粒子の発見などが期待されている。日本はLHCのATLAS検出器の重要メンバーで,KEKや東京大学など多くの研究者が現地入りしている(ALICE検出器にも広島大学を中心とする大学グループが加わっている)。

 

 LHCで発見が予想される新粒子をより詳細に研究するための次世代巨大加速器,国際リニアコライダー(ILC)構想は近く本格的な設計段階に入る。KEKはその中核的な研究開発拠点で,超電導の加速装置(加速空洞)や電子・陽電子ビームを非常に細く絞り込む技術の開発などが進んでいる。

 

 一方,国内では,粒子衝突の頻度の指標となるルミノシティーで世界最高性能を持つBファクトリー(KEKB加速器)がKEKで稼働,検出器Belle(ベル)によって宇宙における物質と反物質の不均衡の謎を解く手がかりをつかむ成果を上げている。

 

 さらに今年,大強度陽子加速器施設J-PARCの第1期分がKEKと日本原子力研究開発機構の協力で茨城県東海村に完成,動き始める。第1期分といっても総工費約1500億円に達する国内最大の加速器だ。J-PARCは基礎研究と産業利用の2つの役割があり,基本的には基礎研究をKEKが,産業利用を原子力機構が担う。

 

 「問題は,LHCからILCへと向かう国際的な巨大加速器の流れと,BファクトリーからJ-PARC,さらにはポストBファクトリーという日本独自の素粒子実験の流れをどのように整合して進めるかだ」(鈴木機構長)。

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