今年,スイスのジュネーブにある大型ハドロン衝突型加速器LHCが本格的に稼動する。2つの陽子を高速で正面衝突させて,1兆電子ボルトという高エネルギー状態を人工的に作りだす。宇宙誕生の最初の1マイクロ秒までの状態が実現され,すべての粒子に質量を与えると考えられている「ヒッグス粒子」や現在の素粒子の標準理論の枠を越える超対称粒子など,理論的に存在が予言されている粒子のいくつかを発見できると期待されている。だが,詳細な分析を行うには,クォークとグルーオンでできた複合粒子である陽子の衝突現象は少々複雑だ。
実は物理学者たちはLHCで実験が開始される以前から次の衝突型加速器の実現に向けて邁進していた。この加速器は国際リニアコライダー(ILC)と呼ばれる。リニアと呼ばれるゆえんは,LHCのように円形加速器ではなく線形加速器で粒子を加速するからだ。陽子よりも基本的な粒子である電子と陽電子を衝突させるため,LHCでの発見をより詳細に調べることが可能になるだろう。
ILCには長さ11.3kmの線形加速器が2つ組み込まれるなど,大まかな設計は決まった。粒子の生成,加速,衝突の各段階において,現在の技術以上のものが求められている。現在,世界の1600人を超える科学者と技術者がコストを抑えつつ,最大の性能を実現できるよう加速器の設計や衝突を解析する測定器の開発などに取り組んでいる。
今後,技術的課題の克服に加え,必要な資金を確保し,全長30km以上に及ぶ施設の建設場所を選ばなければならない。すべてが予定通りに進めば,2020年代,ILCは素粒子物理のフロンティアを照らし始めるだろう。
著者
Barry Barish / Nicholas Walker / 山本 均(やまもと・ひとし)
3人はいずれも電子・陽電子衝突の専門家だ。バリッシュは国際リニアコライダー(ILC)の設計責任者で,カリフォルニア工科大学リンデ記念教授。専門はニュートリノ,磁気モノポール,重力波など。ウォーカーは独ハンブルクのDESY研究所の研究員で,線形加速器の設計に15年間取り組んでいる。ILCの技術設計部門のプロジェクト責任者3人のうちの1人。山本は東北大学教授でスタンフォード線形加速器センターやコーネル大学の電子蓄積リング,高エネルギー加速器研究機構(KEK)での衝突実験に従事している。
原題名
Building the Next-generation Collider(SCIENTIFIC AMERICAN February 2008)
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