日経サイエンス  2007年12月号

特集:肥満と食糧危機

途上国を襲うメタボリックシンドローム

新たな問題

B. M. ポプキン(ノースカロライナ大学)

 発展途上国に暮らす数億人の食と健康をめぐる状況は,この20年で激変した。ほとんどの途上国では,飢餓に代わって肥満が健康への脅威になりつつある。とくにメキシコやブラジル,エジプト,中国などでは体重過多および肥満の人たちの割合が急増している。メキシコでは成人の69%,ブラジルでは59%が体重過多まはた肥満だ。メキシコこの問題が顕在化して,南アフリカ共和国などでは,成人の半数以上が「太り気味(体重過多)」(体格指数BMIが25以上)または「肥満」(BMIが30以上)だ。世界規模でみると,13億人以上が体重過多であるのに対して,飢餓に苦しむ低体重者は約8億人にとどまる。

 

 いまや肥満人口の割合は途上国でも米国のような豊かな国でもほとんど変わらない。しかも,栄養不足から栄養過多への移行(栄養転換)は100年足らずで起こっている。その最大の原因は,テレビや乗り物の普及などによって身体を動かすことの少ない暮らしへと変化したことと,カロリーの高い甘味料や植物油,動物性食品(肉類,魚,卵,乳製品)が安価で手に入るようになったことだ。

 

 途上国のライフスタイルや食事は欧米に近づいているが,健康への関心は低く,疾病の予防や治療に使える予算も不十分だ。その結果,肥満による糖尿病や心臓病が爆発的に増えている。中国では国民の1/3が高血圧だが,治療を受けている人はごく一部にすぎない

 

 途上国の肥満問題を解消するには,経済のグローバル化に目を向ける必要がある。各国政府や産業界のほとんどが,途上国に安価な甘味料や油,食肉を大量に供給しながら,果物や野菜の消費には手を貸さず,肥満増大の原因を作ってきた。今後,農業補助金の見直しや食品の広告規制によって,健康へのダメージを軽減できる可能性はある。しかし,それを実現するには,新たな政策研究を進め,長期にわたる資金提供の責任を負うなど,大きな政治的決断が必要だろう。a

著者

Barry M. Popkin

ノースカロライナ大学チャペルヒル校の栄養疫学の教授であり,同校の肥満学際研究センター所長を務める。自身の研究プログラムでは,米国や中国,ロシア,フィリピン,ブラジルをはじめ各国における食事,活動パターンおよび身体組成の変化を追跡する大規模な全国調査を行ってきた。栄養科学国際連合の栄養転換委員会の委員長を務め,多数の著書のほか260編を超える学術論文を発表している。1998年,国際栄養研究協会のケロッグ国際栄養賞を受賞。

原題名

The World is Fat(SCIENTIFIC AMERICAN September 2007)

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