日経サイエンス  2007年12月号

特集:肥満と食糧危機

過食を生む脳

神経科学

K. ロートワイラー・オゼッリ(科学ライター) N. D. ボルコフ(米国立薬物乱用研究所)

 強迫性の過食症と,薬物依存。両者に脳の一部が共通してかかわっていることが明らかになり,肥満の理解と治療に新たな手がかりが得られつつある。依存症研究の第一人者で米国立薬物乱用研究所の所長を務めるボルコフ(Nora D. Volkow)に聞いた。

 

■食物と薬物のどちらによっても同じく活性化する脳の神経回路とは?

 

 報酬と喜びに関連する「報酬系」という神経回路が活性化する。これによって条件づけ反応が生じ,ついには食物や薬物を見ただけで,あるいは食事や薬物使用が行われる環境に身を置いただけで,反応が起こるようになる。

 

 高カロリーの食物,特に脂肪や砂糖を多く含む食べ物ほど,過食を引き起こしやすい。人類はかつて狩猟生活を送り,当時は食べ物を常に見つけられるとは限らなかったので,高カロリー食物が生き残りに有利だった。この種の食物をできるだけ多く食べるのが最重要であり,そうした行動が強く推奨されたわけだ。しかし現在では,台所の冷蔵庫を開ければ必ず食べ物が見つかる。私たちの遺伝子はほとんど変化していないのに,周囲には脂肪や砂糖をたっぷり含んだ食品があふれており,これが肥満をもたらす一因となってきた。

 

 

■食べ物を欲しがっているとき,脳のなかでは何が起こっているのですか?

 

 快楽追求行動に関係するドーパミンという神経伝達物質が増える。ドーパミンは私たちに,生き延びるために注意を払わねばならない新情報が思いがけず現れたことを知らせてくれる。危険や痛みのほか,セックスや食物,快楽の知らせだ。ドーパミンが放出されているとき,あなたは「目的達成に向けた行動を起こせ」というメッセージを受け取る。この刺激は強力で,意志の力だけでこの衝動を克服するのは非常に難しい。

 

 肥満者や薬物依存者はドーパミンに対する反応が異常なために,食物や薬物を常に摂取せずにはいられなくなっている可能性がある。また,そうした異常反応を補償しようとしているのかもしれない。

 

 

■依存症と肥満の共通点から,新たな治療の手がかりが得られませんか?

 

 ドーパミンに対する脳の反応を高める薬など,薬理的な手だてがいくつか考えられる。最近,神経ペプチドの「オレキシン」を阻害する薬が合成され,経口薬として試験されている。

 

 医薬品による治療のほか,バイオフィードバック,集団療法など,それぞれに期待できる効果がある。多面的な戦略が必要だ。

 

著者

Kristin Leutwyler Ozelli / Nora D. Volkow

オゼッリはロンドンを本拠に活動している科学ライター。ボルコフは米国立薬物乱用研究所(NIDA)の所長。

原題名

This Is Your Brain on Food(SCIENTIFIC AMERICAN September 2007)

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