日経サイエンス  2007年12月号

特集:肥満と食糧危機

特集:肥満と食糧危機 世界を蝕むパラドックス 命の糧をめぐる問題

プロローグ

G. スティックス(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

 途上国ではかつての飢餓ではなく,肥満がより大きな問題になっている場合が多い。グローバリゼーションの副産物として生じた「栄養転換」の結果だ。現ミレニアムは史上初めて,世界で太りすぎの人の数が栄養不良の人口と肩を並べた。人口統計上は,栄養過多の人は13億人で,腹をすかせた人々を数億人上回る。

 

 現在の世界では,富める者と貧しい者が食卓に関して同じ悩みを抱えている。「コカ・コーラ的植民地化」は途上国にジャンクフードをもたらす基盤となった。メキシコの人々が加糖飲料から摂取しているカロリーは,いまや米国人のそれよりも多い。同時に,アメリカ流スーパーマーケットの台頭が,コーン油や大豆油などの消費を促している。

 

 栄養転換は決して画一的な現象ではない。飢餓人口が減ってきたとはいえ,栄養不良は引き続き存在する。一方,20世紀の「緑の革命」は限界に近づきつつあるのかもしれない。農地の総量や環境への影響を考えると,これ以上の収穫量アップは望めないだろう。

 

 その点を,遺伝子組み換え作物による「遺伝子革命」によって原理的には補える。ただ,バイオ作物は途上国でまだ十分な成果を上げてはいない。組み換え作物の種苗を提供しているのは民間企業であり,第三世界の中小農場にはとても手が出ないような価格を設定しているところもある。組み換えトウモロコシなどの栽培に挑んでいくぶんの成功を収めた途上国がわずかにあるものの,組み換え作物技術が特定地域に発展をもたらす最大のポイント──干ばつに強い作物や塩分土壌で育つ作物など──は商業ベースではまだ実現していない。

 

 一方,先進諸国は食をめぐる独特の混乱に悩んでいる。食物繊維を多く食べてもがんを防ぐ効果はない,低脂肪食は心臓病や直腸がんの予防にはならない,といった研究結果が出るたびに一般人の“常識”はひっくり返されるが,これはこの種の研究が解析を過度に単純化せざるをえないのが一因だろう。

 

 この特集号の冒頭記事「健康になるメニュー」の著者ネスル(Marion Nestle)は,スーパーマーケットでどの食品を買えばいいのか困惑するお客のために問題を整理し,以下のように集約してみせる。控えめに食べ,もっと運動し,果物と野菜,全粒穀類を多く食べ,ジャンクフードを避けること。

 

 この考え方でいくなら,料理法と栄養科学の対立も解けるだろう。両者とも,ビタミン強化代用食品はきっぱり拒否するはずだ。

原題名

A Question of Sustenance(SCIENTIFIC AMERICAN September 2007)

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