日経サイエンス  2007年10月号

ネコがたどってきた1000万年の道

S. J. オブライエン W. E. ジョンソン(米国立がん研究所)

 ペットになっているイエネコ,ヤマネコ,トラ,ライオンなどネコ科動物は世界中に生息し,現在37種が知られている。私たちになじみ深い動物だが,祖先は最初にどこに登場し,どんな進化の道筋をたどってきたのか,実はよくわかっていなかった。ネコの化石は数が少ないうえに,それらを見分けるのが難しいからだ。

 

 それが最近,DNA塩基配列の比較分析が進んだ結果,古生物学や地質学などから得られた知識を組み合わせることで,ネコ科動物の分類とそれらの系統が出現した時期が明確になった。人類進化の研究でも同様の手法が用いられているが,ネコの進化の研究でも大きな威力を発揮することになった。

 

 ネコ科動物は約1100万年前にアジアに生息していたプセウダイルルスの仲間を祖先とし,8系統に次々と分岐していった。ネコは年頃になると生まれた土地を追い出される。この生来の習性のため,ネコの生息域は世代を重ねるごとに拡大し,世界中に広がった。

 

 海面が下降し大陸間が陸続きになる氷河期にはユーラシア大陸からアフリカ大陸や北米大陸への進出が可能だった。それが温暖化によって海面が上昇し各大陸が孤立すると,それぞれの地で独自の進化を遂げた。こうして生まれた新種のネコたちは,次の氷河期がやってきて再び大陸どうしがつながると,大規模な移動を繰り返した。ネコ科動物は海面の上昇と下降に合わせ世界を股にかけて進化してきたのだ。

 

 ネコ科動物の進化の解明を通じて「ゲノム先史学」という新分野が開拓された。種どうしの親類関係や,移動の様子,絶滅の危機の有無などがわかると期待されている。

 

 

再録:別冊日経サイエンス226「動物のサイエンス 行動,進化,共存への模索」

 

著者

Stephen J. O'Brien / Warren E. Johnson

オブライエンは1971年にコーネル大学で遺伝学のPh.D.を取得後,ポスドク研究員として米国立がん研究所(NCI)に移った。1980年代後半に遺伝子多様性研究室を立ち上げ,現在はその室長を務めている。SCIENTIFIC AMERICANには,これまで3編の記事を執筆した。最近の著書は,『Atlas of Mammalian Chromosomes』(Wiley,2006)。ジョンソンは1992年にアイオワ州立大学で動物生態学のPh.D.を取得。同年,NCI遺伝子多様性研究室に加わった。

原題名

The Evolution of Cats(SCIENTIFIC AMERICAN July 2007)

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