日経サイエンス  2006年11月号

マッハ15を目指すスクラムジェットエンジン

T. A. ジャクソン(米国空軍研究所)

 映画『スター・ウォーズ』でルーク・スカイウォーカーが駆ったXウィング宇宙戦闘機のように,滑走路から飛び立って宇宙まで飛翔し,再び地上に帰還可能な航空機を開発することは技術者たちの長年の夢だ。だが,ある障害が立ちはだかってきた。ジェットエンジンは燃焼に酸素を必要とするが,高層大気には十分な酸素がないので燃焼を維持できないのだ。このため宇宙へ飛行するには,燃料と酸化剤の両方を積んだロケットが必要となる。

 

 現在実用化されている最先端の宇宙往還機であるスペースシャトルですら,打ち上げ重量の約半分が液体酸素と固体酸化剤で,燃料を燃やし続けるためにこれらを軌道まで運んでいかなければならない。

 

 長年の夢を実現する方策の1つが,上昇しながら大気から酸素を取り込む超音速燃焼ラムジェット(別名スクラムジェット)だ。酸素を運ぶ代わりに大気中から取り入れることで重量を節約できるため,ロケットに比べると,同重量の推進剤を燃やして約4倍の推力が得られる(燃費が4倍になる)。

 

 数十年にわたる断続的な研究開発の後,スクラムジェットはようやく実用段階に入るメドがつきそうだ。2007年と2008年には重要な本格的な地上試験が,2009年には画期的な飛行試験がいくつか予定されている。

 

 軌道に向けて直上に打ち上げるロケットと異なり,スクラムジェット機は翼と胴体で生じた揚力によって飛行機のように上昇するため,操縦性や安全性が優れている(たとえ飛行を中断しても滑空して着陸できる)。離陸してから超音速領域までは,従来のジェットエンジンで加速する〔超音速はマッハ1(高度0mで時速1200km)以上〕。その後スクラムジェットに切り替え,極超音速領域のマッハ5~15で飛行する(マッハ15がスクラムジェットの理論上の限界値)。さらに,小型のロケットエンジンでペイロード(荷物などの物資や人)を加速し,最終的に軌道まで持っていく。

 

 スクラムジェット機は航空機に革命を起こすに違いない。再利用可能な宇宙往還機を従来の航空機と同じように使うことができれば,人や物資を軌道に運ぶ費用が劇的に低下し,宇宙飛行は今よりもはるかに日常的な旅行となる。スクラムジェットエンジンが軍用機やミサイルに搭載されれば,今よりずっと短時間で地球上のいかなる標的にも爆弾を運べるようになる。さらにいつの日か,スクラムジェットが長距離極超音速旅客機のエンジンに採用されれば,ニューヨーク・シドニー間をわずか2時間で結ぶことになるだろう。

 

 スクラムジェットによる極超音速飛行を達成しようと,世界中の研究者が技術的課題の克服に取り組んでいる。ここでは,私が最も深くかかわっている米空軍とプラット・アンド・ホイットニーの「極超音速テクノロジー(ハイテック)スクラムジェットエンジン計画」に焦点を当てよう。スクラムジェットエンジンに関してはこの他にも,米海軍や米航空宇宙局(NASA),国防総省高等研究計画局(DARPA),さらにオーストラリアや英国,日本など各国のチームが研究を進めている。

著者

Thomas A. Jackson

オハイオ州にある米国空軍研究所・推進機関理事会の航空宇宙推進機関部副部長で,空気吸い込み式推進エンジン技術の研究方針を策定している。1985年にカリフォルニア大学アーバイン校で機械工学のPh. D. を取得し,マサチューセッツ工科大学のスローン経営大学院で技術経営M. A. を取得した。主として推進エンジンの燃焼や燃料噴射技術を研究。6人の子どもの父親で,休日は家の修繕やおもちゃの修理,テニスなどを楽しんでいる。

原題名

Power for a Space Plane(SCIENTIFIC AMERICAN August 2006)

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