日経サイエンス  2006年11月号

モンスーンで隆起するヒマラヤ

K. ホッジス(アリゾナ州立大学)

 雨による浸食で山が削られるのは当たり前の話だが,もし浸食によって山が隆起しているとしたら…。あり得ないような話がヒマラヤ山脈では起きているようだ。

 

 舞台となるヒマラヤ山脈とチベット高原は「ヒマラヤ・チベット造山帯」と呼ばれる。インド亜大陸がのるインドプレートは約4500万年前にユーラシアプレートに衝突し,ヒマラヤ・チベット造山帯ができた。同造山帯の地殻は地球上で最も厚くて70km以上に達する場所もある。その地下深部では,高温高圧によって岩石が部分溶融し,流動層が数百万年にわたって存在しているらしい。

 

 一方,夏,ベンガル湾上で発生した熱帯低気圧は北上してヒマラヤ山脈の南斜面にぶつかり,モンスーンの大雨を降らす。この大雨によって,山脈の南斜面が削られると,それが地下深部の流動化した岩石を引き寄せ,岩石層が地表面に押し出されてくる。この急激な隆起によって浸食で削られた分が補充され,山腹は急傾斜を保つ。そのため,次の年,再びモンスーンの大雨が降ると,急激な浸食が起こり,それが再び流動化した岩石を引き寄せて……という具合にサイクルは長い年月にわたって継続しているらしい。

著者

Kip Hodges

造山帯の発達や進化を研究し,理論と実験を野外調査と結びつけることに力を注いできた。マサチューセッツ工科大学(MIT)地球大気惑星科学教室の教授として23年間在職し,2006年6月,アリゾナ州立大学に新設された地球宇宙探査学部の初代学部長となった(そのため雪かきシャベルで衝上断層を作る実験は終わりを迎えた)。ノースカロライナで育ち,ノースカロライナ大学チャペルヒル校で地質学を学ぶ。地質学の研究でMITからPh.D.を得た。研究の多くはヒマラヤ・チベット造山帯に集中しているが,スカンジナビアや極域の東グリーンランド,アイルランド,米国西部,バハ・カリフォルニア(カリフォルニア半島),南米ペルー・アンデス山脈に関するテクトニクスの研究にも取り組んできた。Tectonics誌の編集に携わり,Contributions to Mineralogy and Petrology誌の編集委員でもある。趣味はダイビング。できる限りの時間,海面下の世界に滞在しながら,海面上の私たちの世界に関する新たなビジョンを得ている。

原題名

Climate and the Evolution of Mountains(SCIENTIFIC AMERICAN August 2006)

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