日経サイエンス  2006年9月号

細菌で汚れる海辺

M. A. モーリン(ノースカロライナ大学)

 ここ数年,穏やかな気候や豊かな自然,海辺での暮らしを求めて沿岸地域,とくに南東部に移り住む人が増えている。ところが残念なことに,無秩序な開発が急ピッチで進んだため,海岸の美しさが損なわれつつある。海辺のビーチや潮干狩り場,磯など貝類を採る場所(貝床)では,動物や人の排泄物に由来する病原微生物による汚染が深刻化しているのだ。

 

 自然資源保護協会(NRDC)の最新レポートによると,2004年に沿岸の州が出したビーチ閉鎖令は延べ1万9950日に及び,水質汚染注意を出された海岸や湖岸,川岸は1234カ所だった。これらは保健所が定期的に水質調査をしている水辺のおよそ1/3にのぼるという。ビーチに規制措置が発令された総日数は2003年よりも9%多かった(2002年と比べると50%高くなったが,この急増はモニタリング規則を連邦政府が変更したことも一因)。ビーチ閉鎖令や注意の85%は,排泄物に由来する細菌の数が基準を上回って検出されたためだった。

 

 大雨によって下水や浄化槽があふれると,そこに含まれる人間の排泄物が流れ出てしまう。また,農場に大雨が降れば家畜の糞便も洗い流されてくる。こうした水は排泄物中にいる病原微生物に汚染されており,それがめぐりめぐって再び人体に入れば,肝臓や呼吸器などの疾患をもたらし,ときには死に至る深刻な消化器疾患を引き起こす危険もある。

 

 こうした疾病は衛生状態が劣悪な途上国では頻繁に発生している。だが,米国ではこうした問題を引き起こすおもな原因は,貧困ではなく無分別な開発だ。先進国では住宅や道路,ショッピングセンター,駐車場などの建設によって沿岸地域における自然の排水浄化システムが破壊され,かつては野原や湿地で濾過されていた排泄物が港湾やビーチを日常的に汚しているのだ。

 

 だが,計画的に開発を進める「スマートグロース(賢い成長)」を念頭に置いた政策をとれば,海辺をきれいな状態に戻し,これによる経済的な効果も期待できる。というのも,ビーチがたびたび閉鎖されると観光業が落ち込み,不動産の価値も下がる恐れがあるからだ。適切に管理しながら沿岸地域を開発することで,人々の健康を守ると同時に地域経済を守ることにもつながる。

著者

Michael A. Mallin

水域生態学者。淡水や河口,海岸水系の汚染を幅広く研究している。ノースカロライナ大学ウィルミントン校・海洋科学センターの教授。同大学チャペルヒル校より海洋・河口生物学でPh.D.を取得。土地の利用や栄養負荷,天災などが水質にどう影響するかを分析している。

原題名

Wading in Waste(SCIENTIFIC AMERICAN June 2006)

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