日経サイエンス  2006年2月号

重力は幻なのか? ホログラフィック理論が語る宇宙

J. マルダセナ(プリンストン高等研究所)

 上下,左右,そして前後──空間の次元が3つあることは,私たちの身のまわりを見れば実感できる。これに時間を足せば,空間と時間が4次元で溶けあった「時空」になる。というわけで,私たちは4次元宇宙に住んでいる。しかし,本当にそうだろうか?

 

 私たちが感じている重力や空間次元の1つは,もっと次元の低い時空での粒子の相互作用から生まれる一種の「幻」なのかもしれない。「ホログラフィック理論」と呼ばれる物理学の理論によると,重力のない2次元空間は重力のある3次元空間と完全に同等だと考えられる。ホログラムから生まれる立体映像のように,重力を含む3次元の世界は2次元空間の物理から生じているのかもしれない。

 

 この2次元空間は,3次元空間の境界面に存在する。境界面上で起こっている物理現象は,クォークやグルーオンが強く相互作用する様子に似ている。一方,3次元空間内部での現象は,重力の量子論を含んでいる。2つの世界が同等であることから,量子力学と重力理論を適切に融合する道が開けてきた。量子重力理論は,自然界のすべての力を統一しようとする試みのカギを握っており,超ひも理論の研究者が何十年にもわたって進展させてきたものだ。

 

 量子重力的な効果はふつうは完全に無視できるが,ビッグバンの始まりでは非常に重要だった。このため,ビッグバンがどう始まったのかを説明するには量子重力理論が必要になる。また,ブラックホールの内部で何が起こっているかを理解するうえでも重要だ。

著者

Juan Maldacena

プリンストン高等研究所(ニュージャージー州プリンストン)の自然科学部門教授。1997年から2001年までは,ハーバード大学の物理学科に所属していた。この記事で述べられている「双対性」のいろいろな側面を研究中。彼の双対性予想に感銘を受けたひも理論の研究者たちは,1998年に開かれた国際会議Strings '98で「ザ・マルダセナ」という歌に合わせて踊り,ひも理論研究の進展を祝った。この曲はマカレナの調子で踊りながら歌う。

原題名

The Illusion of Gravity(SCIENTIFIC AMERICAN November 2005)

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