日経サイエンス  2006年1月号

開発進むナノ抗体医薬

W.W.ギブズ(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

 1989年,マイルダーマンズはブリュッセル自由大学のハマーズ(Raymond Hamers)らはヒトコブラクダの血液中抗体の検査のひとつで,誤りとしか思えない結果について研究していた。正常な4本鎖の抗体のほかに,H鎖2本だけという単純な構造の抗体が認められたのである。

 

 数年にわたる研究の末に,ハマーズ,マイルダーマンズらは1993年,この予期せぬ発見を『ネイチャー誌』に発表した。ヒトコブラクダだけでなく,アジアのフタコブラクダと南米のラマでも,血液中を循環している抗体の約半数にはL鎖が無かった。しかもこの“不完全”な抗体が,正常な抗体同様,標的をしっかり捕まえられると判明した。

 

 マイルダーマンズの研究チームがこの新規の分子を断片化して特有の可変領域だけを残したところ,10倍も大きいモノクローナルにほぼ匹敵する,標的への結合親和力を維持していた。この断片化した抗体は化学的反応に富み,酵素の活性領域や細胞膜の裂け目など,抗体が入り込むには小さすぎる標的にしっかり取り付くことができる。こうしてナノ抗体が誕生し,その後すぐにアブリンクス社が設立された。

 

 ナノ抗体は抗体よりもはるかに小さく,疎水性ではないため,熱にも極端なpH値にも強いとマイルダーマンズは言う。ナノ抗体は化学組成と化学形態が従来の抗体よりもずっと単純であるため,微生物による合成が容易だ。ラマに標的抗原で免疫付与し,その血液からH鎖のみを持つ抗体を抽出するという方法をとれば,「4か月以内にナノ抗体を作り出すことができる」。

 

 ナノ抗体の最強の利点のひとつは,このタンパク質が相互に,あるいは別種の化合物と比較的容易に結合しうることだ。研究チームはアルブミンに対する抗体をナノ抗体と結合させることにより,血流中での半減期を数週間に延長したそうだ。彼らはこれまでに最高4種のナノ抗体を結合させて,“多価”抗体も作り出している。

原題名

Nanobodies(SCIENTIFIC AMERICAN August 2005)

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

ガンナノサイズラクダモノクローナル抗体H鎖