日経サイエンス  2006年1月号

渦巻銀河のダイナミズム

F. コム(パリ天文台)

 渦巻銀河の美しい形はどのようにして生じるのだろうか。その姿は不変ではなく,複雑な力学によって絶えず変化していることがわかってきた。

 無数の星や星間ガスが織りなす一種の「波」が,銀河の構造変化を支えている。

 1960年代以降,渦巻銀河の形は不変の構造ではなく,物質の密度変動によって生じる移ろいやすい振動であることがわかった。星やガス雲が集まっては離れ,この過程で自ら軌道を整えている。池に小石を投げ込んだときのように,銀河のなかを密度波のさざなみがゆっくりと広がっていく。これによって,渦巻きの腕や,銀河中心部の棒状構造(バー)が生まれる。棒状構造は最も内側の渦巻きの腕が始まっている部分で,私たちの天の川銀河もこの構造を備えた「棒渦巻銀河」だ。

 

 しかし最近まで,密度波理論から予測される銀河の形やその数は実際の観測結果と一致しなかった。初期のシミュレーションでは,まず最初に渦巻き構造が発達してくるものの,すぐに消えてしまい,後に棒状構造が残る。棒状構造のない渦巻銀河が現に存在するという事実と矛盾してしまった。

 

 これは理論モデルが星間ガスを考慮していなかったのが原因だ。星間ガスは質量が小さいにもかかわらず,大きな影響を及ぼしている。星間ガスの影響を組み込んだ著者らの研究によって,現在ではさまざまな形の渦巻銀河が存在する理由にほぼ説明がついた。

 

 渦巻銀河では密度波によって角運動量が輸送され,銀河中心部に物質が集積する。銀河中心のブラックホールに物質が供給されるのはこのおかげらしい。銀河間空間からガスが徐々に降着することによって,銀河はその形を維持しつつ成長していく。密度波はこの材料を配分し,銀河を衰弱から救っている。宇宙を生き生きとした空間に保っているのは,この波なのだ。

著者

Françoise Combes

パリ天文台の天文学者で,銀河の力学に関する専門家。専門研究を深めるかたわら,星間ガスからクェーサー,暗黒物質まで,観測・理論の両面にわたって幅広い事柄に関心を抱き続けている。2004年,女性天文学者としては初めてフランス科学アカデミーの会員に選出され,現在はフランス天文学委員会の委員長を務めている。余暇には印象派風の油絵を描く。

原題名

Ripples in a Galactic Pond(SCIENTIFIC AMERICAN October 2005)

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

ブラックホール共回転円リンドブラード共鳴点重力位置エネルギーハッブル宇宙望遠鏡