日経サイエンス  2006年1月号

バーチャル考古学 シミュレーションで迫る古代社会

T. A. コーラー(ワシントン州立大学) G. J. グマーマン(スクール・オブ・アメリカンリサーチ) R. G. レイノルズ(ミシガン州立ウエイン大学)

 人類の歴史のうち,文書を通して知ることができるのはほんのわずかだ。残りは考古学的資料が主な情報源となる。考古学者は遺跡や人工遺物,遺体などを調べ,何百年さらには何千年も前の人間社会の様子を正確に描き出そうと苦心を重ねてきた。だがこうした遺物から,社会の形成と変化の過程を知ることは難しい。

 400万年前のヒト科の祖先は直立歩行する霊長類の小さな集団で,石器ももたず言葉もほとんどなかった。そこから現在の地球に存在する社会や文明に到達するまでには,さまざまな因果関係や偶発的なできごとが鎖のようにからみあっている。現在もこれを解明しようとする研究が続けられている。

 

 コンピューターが登場すると,考古学者たちは先史時代の人間を調べる手段としてシミュレーション実験を利用するようになった。考え方は単純だ。人口増加や資源利用などの変遷をまねるようコンピューターをプログラムして,その予測結果と考古学的な記録がどの程度一致するかを調べる。

 

 最近は新しいコンピューター言語によって,古代社会に関してより詳細なシミュレーションが可能になった。Javaなどオブジェクト指向のプログラミング言語なら,相互に影響しあう多数のエージェントを含んだモデルを作れる(エージェントとは判断機能をもち,自らの行動を制御できるプログラム)。

 

 このモデルは,ある土地に点在して暮らすそれぞれの家族をエージェントとして表現する。エージェント間の相互作用を通じて,協調関係の成立や資源・情報の交換をシミュレーションする。各エージェントの行動を指定するルールをあらかじめ組み込んではあるが,エージェントは学習によって新たな行動を獲得することも可能だ。

著者

Timothy A. Kohler / George J. Gumerman / Robert G. Reynolds

3人は古代社会のシミュレーションにそれぞれの能力と専門知識を応用してきた。コーラーはワシントン州立大学人類学部教授およびコロラド州コルテスにあるクロー峡谷考古学センターの研究助手。米国南西部のコロラド州南西部とニューメキシコ州リオグランデ渓谷北部を中心に20年以上研究を行ってきた。グマーマンはサンタフェにある教育NGO,スクール・オブ・アメリカンリサーチの校長で,南西部の考古学的研究に30年以上携わってきた。このテーマに関する著作は20冊以上にのぼる(コーラーとグマーマンはサンタフェ研究所の客員研究員でもある)。レイノルズはミシガン州立ウエイン大学のコンピューター科学の教授で,ミシガン大学アナーバー校の人類学博物館の研究助手。彼は文化アルゴリズムに関する2冊の著作と多数の記事を執筆してきた。著者らは全米科学財団(NSF)の支援に謝意を表明している。

原題名

Simulating Ancient Societies(SCIENTIFIC AMERICAN July 2005)

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