日経サイエンス  2005年10月号

恐竜が大きくなれたわけ

J.R. ホーナー(モンタナ州立大学) K. パディアン(カリフォルニア大学バークレー校) A. ド・リクレ(コレージュ・ド・フランス)

 最近まで,恐竜の年齢を測定する手段はなかった。これまで多くの古生物学者たちは,恐竜は爬虫類なのでおそらく現生の爬虫類と同じようにゆっくり成長すると推測してきた。とすると大型の恐竜は非常に高齢に達していたに違いないが,何歳まで生きたかは誰にもわからなかった。現生の爬虫類で恐竜のような大きさに達するものはないからだ。

 

 恐竜の年齢や成長の仕方を知るための証拠は骨の中の成長線に残っていた。20世紀後半に入ってから骨の内部構造から恐竜の成長の仕方を探る研究が本格化した。

 

 木の年輪と同様,恐竜の骨の成長線も1年に1本生じた。だが恐竜の成長線には成長の全記録が残されているわけではない。恐竜の骨は中心部にある破骨細胞が既存の骨を分解し,その栄養素をリサイクルする役目を担う。新しい組織は骨の外側に沈着していくため,若い頃できた成長線は消えてしまうのだ。このため消えた成長線は若い個体の骨を使い推測するなど,成長線の解析には工夫が必要だ。

 

 最近,ティラノサウルスの後ろ脚の骨の切片を作り顕微鏡で観察したところ,成長線はわずか4~8本だった。他の骨の組織などからも調べた結果,ティラノサウルスは成体サイズに達するのに15~18年かかったことがわかった。ワニなどの爬虫類と比べてみると比較的速い成長だった。だがその後の研究で実は,恐竜としては決して速いほうではないことがわかってきた。

 

 他の研究グループの報告なども合わせてみると,恐竜の成長の仕方は,爬虫類よりもむしろ現生の鳥や哺乳類に近い。この理由は骨の構造をみるとわかる。恐竜の骨は爬虫類に比べて血管も密度が高い構造をしていた。血管が多ければ代謝効率が高まり成長速度も上がる。恐竜は成体サイズになるまで速い成長速度を保っていた可能性が高いという。

 

 骨から進化の分かれ道を探ることもできそうだ。ワニなどの爬虫類から分かれた恐竜はやがて高い成長速度を獲得し,ほかの爬虫類と一線を画するようになった。さらに小型化して鳥への進化にもつながったと考えられる。

 

 

再録:別冊日経サイエンス220 「よみがえる恐竜 最新研究で明かす姿」

 

著者

John R.Horner / Kevin Padian / Armard de Ricqlès

3人は12年以上,恐竜の骨の観察を続けている。ホーナーはモンタナ州立大学の古生物学の教授とロッキー山脈博物館の古生物学部門の責任者を務める。パディアンはカリフォルニア大学バークレー校の古生物学博物館の館長と統合生物学の教授を務める。ド・リクレはコレージュ・ド・パリで進化生物学の教授を務める。パリ第7大学では恐竜の骨の形態と内部組織を総合的に見る研究を進めている。

原題名

How Dinosaurs Grew So Large-and So Small(SCIENTIFIC AMERICAN July 2005)

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