日経サイエンス  2005年7月号

痛みをいやす毒 貝から生まれた鎮痛剤

G.スティックス(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

 ある種の巻き貝が持つ毒素には痛みを抑える作用がある。この毒素をまねて人工的に作られた鎮痛剤が米国で実用化した。海洋生物は新薬を生む資源といえるかもしれない。

 

 昨年12月末に米食品医薬品局(FDA)がアイルランドの製薬会社エランのプリアルト(一般名ジコノチド)という鎮痛剤を認可した。他の治療法が効かない重度疼痛の治療薬で,インド洋・太平洋域に生息するイモガイの1種,ヤキイモ(Conusmagus)の毒素をまねて合成された化合物だ。海洋生物,特に無脊椎動物が医薬品開発に役立つことを示した初の例といえる。

 

 プリアルトの開発物語は1970年代初めにさかのぼる。スタンフォード大学にいたフィリピン出身の研究者が,巻き貝の毒に神経チャネルを遮断する分子が含まれていて神経科学の研究に使えるかもしれないと考えたのが発端だった。

 

 その後,南カリフォルニア大学の生化学者ミラニッチ(George Miljanich)がこのテーマを研究。ニューレックスというバイオベンチャーに転職して,ヤキイモの毒に含まれるオメガ(ω)コノペプチドを医薬品に応用する研究を進めた。

 

 当初計画したてんかん治療薬への応用が失敗したほか,臨床試験で副作用が生じたり,資金繰りが苦しくなったニューレックスがエランに買収されるなどの紆余曲折があったが,ついに認可を獲得した。

 

 巻き貝も,その毒素も非常に多様で,500種の巻き貝が少なくとも5万種のペプチドを作り出している。こうした海洋生物資源の利用を計画している会社がいくつかある。ユタ州ソルトレークシティーのコグネティクス社,オーストラリアのゼノム社とメタボリック・ファーマスーティカルズ社などで,主に慢性疼痛の治療を目的とした巻き貝ペプチド薬の開発や試験を始めている。

原題名

A Toxin against Pain(SCIENTIFIC AMERICAN April 2005)

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