日経サイエンス  2005年7月号

超電導の常識を破った二ホウ化マグネシウム

P.C. キャンフィールド S. L. バドコ(米エネルギー省エイムズ研究所)

 2001年,青山学院大学の秋光純教授らが,ごく平凡な化合物と思われていた二ホウ化マグネシウムが約40Kで超電導になることを発見した。その後4年間の研究でこの超電導体の特性が詳しく解明され,応用面でも大きな期待が寄せられるようになっている。

 

 二ホウ化マグネシウムの臨界温度は同類の金属系物質の2倍近い。実際に超電導体として使うには臨界温度よりもさらに冷やす必要があるが,それでも20~30K程度ですむ。

 

 液体ネオンや液体水素,密閉サイクル式冷凍機で実現できる温度だ。産業分野で超電導体として広く使われているニオブ合金が液体ヘリウムで約4Kにまで冷やす必要があるのに比べ,冷却が容易で安価になる。

 

 二ホウ化マグネシウムに炭素などの不純物を添加すると,磁場中や電流を流した状態でも超電導を維持する性質が強まり,ニオブ合金と同程度かむしろ優れた値を示す。超電導磁石や送電線,高感度の磁気センサーなどへの応用が考えられる。

 

 二ホウ化マグネシウムは50年も前から知られていたにもかかわらず,その超電導性を調べる者は長らく誰もいなかった。超電導を示しそうな金属間化合物について既成概念ができあがり,二ホウ化マグネシウムがそれに合わなかったのが一因だ。しかし,新材料や新しい性質を探索する私たちの耳に,先入観という騒音にかき消されず,なおも自然の声が届くのは幸いといえる。

 

 酸化物超電導体の発見はまったく新しい大陸(探検しがいのある広大な大陸)の発見に匹敵するが,これに対し今回の発見は探検し尽くされた群島のはずれで新島を1つ見つけたようなものだ。ただし,二ホウ化マグネシウムが最後の島なのか,それともその向こうにさらなる驚きが待っているのかは,まだわからない。

著者

Paul C. Canfield / Sergey L. Bud'ko

2人はアイオワ州にある米エネルギー省のエイムズ研究所に勤務している。キャンフィールドはアイオワ州立大学の物理学と天文学の教授でもあり,主に新素材の設計,発見,改良,特性の解明や,低温下での金属化合物の電子状態や磁気状態の研究に取り組んでいる。バドコは新素材の熱力学的特性や磁気特性,輸送特性のほか,金属や半金属の量子振動,さらには高圧・強磁場・低温の極限環境下での物質の物理特性に関心を持っている。

原題名

Low-Temperature Superconductivity Is Warming Up(SCIENTIFIC AMERICAN April 2005)

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