日経サイエンス  2005年7月号

不確実な未来をどう扱うか

S.W. ポパー R. J. レンパート S. C. バンクス(ランド研究所)

 昨年,コペンハーゲンに著名な専門家たちが集まり,環境や健康,社会における緊急課題の優先順位を検討し,「コペンハーゲン合意」を発表した。彼らを招集したのは当時デンマーク国立環境評価研究所の所長だったロンボーグ(B.Lomborg)だ。この会議では費用便益分析を用いて,限りある資金を何に振り向けるべきか評価した。結論は,対処法が比較的よくわかっているマラリア対策などの緊急課題を最優先とすべきだというものだった。気候変動のように,将来の道筋や危険が及ぶ範囲がはっきりしない長期的問題の優先順位は低くなった。

 

 これらの問題はそれぞれ個別に扱われることが多いが,人類は同時にいくつかの問題を並行して解決していかなければならない。コペンハーゲン合意は,最新の技術を用いてより幅広い展望を得ようという試みだった。だがその過程で,最新技術をもってしても「未来は不確実である」という単純な事実に対処できないことが明らかになった。

 

 未来を予言しようという試みには波乱に富んだ歴史がある。人間は空を飛べないと宣言した者もいたし,1970年代の経済や環境をめぐる将来予測は非常に暗いものだった。最近の例では「ニューエコノミー」によって生産性が向上し,景気の変動がなくなるという主張もあった。当然のことながら経営者や政治家などの意思決定者は次の決算期や次の年,次の選挙のことばかり考えがちだ。将来の進路に自信が持てず,よく知っている領分にしがみついてしまうのだ。

 

 不確かな未来に対するこのような反応は理解できる。だがそれでは,国家や世界に対する長期的な脅威を完全に見落としてしまったり,長期的な視点を欠く決定のために問題を悪化させたりすることにもなりかねない。日常の生活では,責任感のある人は現在必要かどうかにかかわらず,はるか先のことまで考える。そのために勉強したり,退職後に備えて貯蓄したり,保険に加入したりするのだ。社会全体にも同じ方針をきちんと適用すべきだろう。だがどうすれば未来と現在を比較検討できるだろうか。科学的不確実性に足を取られないようにする方法はあるのだろうか。

著者

Steven W. Popper / Robert J. Lempert / Steven C. Bankes

3人は科学と政策決定の両方の世界にかかわっており,米国の有名なシンクタンクであるランド研究所(カリフォルニア州サンタモニカ)に所属している。経済学を専門とするポパーは組織に技術革新を取り入れる方法を研究している。物理学者であるレンパートは環境・エネルギー政策が専門だ。コンピューター科学者のバンクスは新しいコンピューターシミュレーション法の生みの親だ。3人とも米科学技術政策局,国防総省,全米科学財団などの政府機関や国連などの国際組織と協力してきた。いずれもランド研究所のパーディー大学院で教鞭をとりつつ,エボルビング・ロジック社を設立し,本文で論じている頑健な意思決定法を実現するソフトウエアを開発している。

原題名

Shaping the Future(SCIENTIFIC AMERICAN April 2005)

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