日経サイエンス  2005年7月号

動物たちの行動経済学

F.B. M. ドゥ・ヴァール(エモリー大学)

 人間がビジネスを行う方法を人類の進化の遺産としてとらえる行動経済学という分野が注目されている。旧来の経済学が,人間は利己主義によって利益の増大を目指すものと考え,市場の力関係を軸に経済活動における意思決定を論じるのに対し,行動経済学は人間の行動に意思決定の原理を求めている。

 

 この新しい考え方をもとに,動物の行動と進化を解き明かそうとするのが「動物行動経済学」である。人間の経済行為は,お返しや報復,需要と供給によって影響を受け,ときには怒りやねたみといった感情が入り込むことがあるが,これと同様,動物たちの取引もこれらに左右されているというのだ。

 

 著者ドゥ・ヴァールらは,類人猿やサルの観察データや新しい実験を通して,毛づくろいをしてくれた者に優先的に餌を分け与えたり,今すぐに利益が得られなくても後の利得のために相手に協力するといった互酬性があることを明らかにした。また,不公平な取引を拒否するといった情動による意思決定も観察された。取引への強い関心は人間だけのものではなく,霊長類の進化の過程で得られた特質と考えられる。集団生活を支えるためには,共同利益を損なうことなく,各個体が互いを最大限に利用することが必要なのだろう。

 

 

再録:別冊日経サイエンス230「孤独と共感 脳科学で知る心の世界」

著者

Frans B. M. de Waal

エモリー大学霊長類行動学のC. H. キャンドラー教授職,同大学ヤーキス霊長類センター付属リビング・リンクス・センター所長を務める。専門はサル,チンパンジー,ヒヒの社会行動と認知で,特に協力と紛争解決,文化について研究している。『政治をするサル』(平凡社),『仲直り戦術(Peacemakingamong Primates)』(どうぶつ社),『サルとすし職人(The Ape and Sushi Master)』(原書房)など著書多数。近刊予定に『OurInner Ape』がある。

原題名

How Animals Do Business(SCIENTIFIC AMERICAN April 2005)

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