日経サイエンス  2005年6月号

生命の基本分子を貫くパターン

内藤健(早稲田大学)

 DNA二重らせん構造の解明から半世紀が経過した。この間に解けた謎も多いが,解けないままの謎もあれば,新たに生じた謎もある。

 

 生体内で実際に機能を担っている分子はまさに多種多様で,よく知られている核酸やタンパク質だけを見ても生物種によって異なり,また,複雑な構造をしている。しかし,それを構成する基本ブロックの数は限られている。核酸の基本ブロックである塩基(厳密にはヌクレオチド)は5種類しかないし,タンパク質をつくるアミノ酸には20種類しかない。

 

 複雑な生命体が一生の大半の時間を安定に生きるためには,何か単純な自己制御法則が働いていなければ不可能であると私は考えてきた。実際に生物が使っている生体高分子の基本ブロックは偶然に決まったのではなく,これを採用した理由,つまり必然性があると思い,それを追ってきた。

 

 私は物理の視点から,スーパーコンピューターによるシミュレーション実験などを通じて生体分子の姿を明らかにしようと研究してきた。その過程で,これまで深く追究されることなく放っておかれた根本的な謎にある程度迫ることができたと考えている。例えば,5種類の塩基はサイズと構造の違いから2つに大別できるが,これはなぜか。なぜ同程度のサイズの分子だけですませなかったのか。生物体の70%ほどを水が占めているのはなぜか,などといった事柄だ。

 

 力学に基づいて分析してみると,それぞれに必然性が見つかった。さらに,基本ブロックの分子の特徴から生じたパターンが,もっと大きな分子や大きな構造体にもまるでフラクタルのように繰り返し現れることもわかった。

 

 ヒトゲノムの解読を終えた今,この膨大なデータから何を読み取るかがきわめて重要なはずだ。だが現在は,RNAのさまざまな機能が新たに見いだされるなど,次々と出てくる新発見に科学者自身が翻弄されているかのようだ。例えばデータベースをつくる際にも,何を基準に項目を整理するのか,その最初の設計が,最終的にはデータベースを生かしも殺しもする。続々と出てくる新データから何をくみ上げるか,私がここで提示するアプローチが1つのきっかけになると考えている。

著者

内藤健(ないとう・けん)

早稲田大学理工学部教授,工学博士。1987年に早稲田大学大学院を修了後,日産自動車勤務を経て,2000年に山形大学工学部助教授,今春より現職。この間,国際高等研究所複雑系研究会やアーヘン工科大学などにも籍を置き,異分野の研究者と交わりながら研究活動を行ってきた。

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