日経サイエンス  2005年5月号

サイエンス・イン・ピクチャー

江戸時代の愛知博物誌 謎の古文書『張州雑志』をひもとく

金澤智

 「自然の叡智」をメインテーマに掲げた愛知万博がいよいよ2005年3月25日から開催となった。異なる形ではあるが,時をさかのぼること約230年前,愛知県の豊かな自然と人々の暮らしを描き出そうとした未完の大著があった。内藤東甫(ないとう・とうほ)による『張州雑志』だ。

 

 動植物や石,人々の暮らし,熱田神宮での祭祀など,その内容は実に幅広い。しかし,藩の“企業秘密”ともいうべき特産品の作り方なども詳しく書かれてあるせいか,秘蔵の書となってしまった。また,内容があまりに多岐にわたるので「博物図譜」のくくりに収まらず,博物図譜の研究からこぼれ落ちてしまった事情もある。

 

 絵と文章からなるページをめくると東甫が優れたナチュラリストであったことがうかがえる。そして今の愛知県はもちろん日本全土で絶滅してしまった動物や絶滅が心配されている動物が,ごく当たり前の生き物として紹介されていることに愕然とする。博物誌としての側面を持つこの本をひもとき,万博会場の周辺に生息していた当時の生き物たちに思いを馳せてみよう。

 

 現在は名古屋市蓬左文庫(ほうさぶんこ)に所蔵されている張州雑志には,今では絶滅してしまったニホンアシカやニホンオオカミ,ニホンカワウソが描かれている。また,当時の熱田沖には,今では国際保護鳥になっているアホウドリの姿を見ることもできたようだ。

著者

金澤智(かなざわ・さとし)

生き物と写真が好きで,休みの日には野外に出かけては鳥や動物を中心としてさまざまな生き物の姿をフィルムに収めている。普段は名古屋市立大学大学院医学研究科で遺伝子の転写調節機構を研究している。この原稿を書くにあたり,以下の方々に感謝の意を表している(順不同,敬称略)。鳥居和之,山本祐子(名古屋市博物館),纐纈茂(名古屋市見晴し台古墳),田中純子(東京国立博物館),今橋理子(学習院女子大学),大畑孝二(豊田市自然観察の森),名古屋市蓬左文庫(『張州雑志』所蔵),阿部純子(永青文庫)。

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