日経サイエンス  2004年10月号

原始地球の気候を支配したメタン菌

J.F. カスティング(ペンシルベニア州立大学)

 およそ23億年前,変わり者の微生物が若い地球の空を酸素で満たし,生物界に革命が起きるきっかけをつくった。シアノバクテリアと呼ばれるこの増殖力旺盛な微生物が登場しなかったら,今,世界にいる生物のほとんど,つまり酸素を必要とする生物は決して進化してくることはなかっただろう。

 

 しかし最近になって,シアノバクテリアが出現して光合成を始めるはるか以前には,別の単細胞生物が原始地球を生物のすめる環境にしていたのだと考えられるようになってきた。地球初期の20億年間の歴史では,絶対嫌気性(酸素存在下では生きられない)のメタン菌が最高権力者の座にあったという説だ。メタン菌の生成したメタンガスが温室効果をもたらし,原始地球の気候や環境に絶大な影響を与えていたというのだ。

 

 メタンの果たしたドラマチックな役割が注目されるようになったのは20年以上も前のことだが,ここ4年間でようやく地球の歴史とメタンとの関係がはっきりしてきた。コンピューターシミュレーションによると,現在の大気中ではメタンガスは10年で消え去るが,原始の無酸素の世界では1万年の長きにわたって存続できた。

 

 当時の化石は残っていないが,メタン菌が地球の生物進化における最初の生命体だったのではと推測する微生物学者も多い。

 

 当時の太陽は今よりもずっと暗く,弱かった。メタン菌が生成するメタンがなかったら,地球全体が凍結してしまっただろう。メタンによる温室効果は地球を暖めておくのに不可欠だったに違いない。しかし,メタン菌は永遠の支配者ではなかった。メタン菌の繁栄に陰りがさすとともに,地球で最初の氷河期が訪れた。その後に繰り返し訪れた氷河期についてもメタンを中心にした仮説で説明できるだろう。

著者

James F. Kasting

ペンシルベニア州立大学の教授。惑星の大気,とくに金星,火星,地球の大気の起源と進化について研究している。1979年にミシガン大学アナーバー校で大気科学のPh.D.を取得して以来,コンピューターモデルを使って大気化学の研究をし,さまざまな温室効果ガスが過去と現在の地球に与えた影響を計算してきた。最近,私たちの銀河系には太陽系以外にも地球に似た惑星が存在するはずだと考え,探求し始めた。NASAの太陽系外地球型惑星探査計画(TPF)のメンバーでもあり,太陽系以外の地球型惑星を見つけ出し,その大気に生命の形跡があるかないかを探ろうとしている。

原題名

When Methane Made Climate(SCIENTIFIC AMERICAN July 2004)

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