日経サイエンス  2004年9月号

世界を見守る賢いセンサー網

D.E. カラー(カリフォルニア大学バークレー校) H. マルダー(インテル・リサーチ)

 私たちはコンピューターを甘やかしすぎてはいないだろうか?高価なうえに壊れやすいので扱いには気を使い,たいてい1台1台に所有者がいてきちんと管理されている。たくさんのコンピューターを接続してシステムを構築するのも一苦労で,専門家を雇わなければならず,多額の予算や相当な時間を費やすはめになる。コンピューターが作り出すサイバーワールドは,木々や鳥,船や橋など現実世界と交わることはほとんどない。2つの世界に接点がないわけではないが,コンピューターと仲良くやっていくには,人間のほうが仕事の目的や方法を変えざるを得ない。たとえば,バーコードが付いた商品をコンピューターで処理するには,人間がひとつひとつスキャナーで読み取らなければならない。

 

 ところが,マイクロエレクトロニクスを駆使した最新装置を用いれば,こんなわずらわしさともおさらばだ。もっと簡単に,コンピューターを身の回りに溶け込ませることができる。カリフォルニア大学バークレー校にある私たちの研究グループはインテルと共同で,トランシーバーやセンサーに単純なコンピューターを組み込んで小型の自律型センサーノード(ネットワークにある端末や機器)を開発し,「モート(mote;ほこり,塵の意味)」と名付けた。モートは「TinyOS」という基本ソフトで動き,起動した瞬間,周囲のモートと自動的に接続する。電力や処理能力に限りはあるものの,多数集まれば周囲の状況を把握するセンサー網を自ら構築し,それが現実の世界に広がり,どんなコンピューターシステムにも成しえなかった処理ができるようになる。

 

 モートは価格が手ごろなうえ,感度も高い電池駆動の小型無線センサーだ。たとえば,スギ科のレッドウッドの森で,あちこちの大きな枝に取り付ければ,木々の周囲のわずかな気候変動を記録できる。昨年の夏には,海鳥の巣の内部や周りに150個のモートを設置し,特定の場所で卵を抱く海鳥の生態を探る研究にも利用された。

著者

David E. Culler / Hans Mulder

2人は,長年にわたり無線センサーノードの共同研究を行ってきた。カラーはカリフォルニア大学バークレー校で情報科学の教授を務めており,インテル・リサーチ・バークレー創設時の所長だ。過去10年間にわたって,高度な協調処理を実現するコンピューターネットワークの構築方法を探究してきた。一方,マルダーはインテル・リサーチの副所長と,4つの大学の研究室を結んだインテル・リサーチ・ネットワークの所長を兼務している。自ら立ち上げた分散システムとユビキタスコンピューティングに関する研究に取り組んでいる。

原題名

Smart Sensors to Network the World(Smart Sensors to Network the World)

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