日経サイエンス  2004年9月号

ついに土星へ カッシーニ探査機の挑戦

J.I. ルーニン(アリゾナ大学)

 7年前に打ち上げられた火星探査機カッシーニが,7月,ついに土星に到達した。今後4年にわたって土星を周回しながら,環の構造の解析や磁気圏の形の測定など,様々な調査を通じて,太陽から遠く離れた神秘の惑星,土星の謎に迫る。

 

 中でも注目されるのは,観測用子機ホイヘンスを衛星タイタンに降下させるミッションだ。土星の衛星タイタンは,太陽系で2番目に大きい衛星だ。そのオレンジ色の大気の主成分は,地球と同じ窒素。水の代わりにメタンが地表と大気の間のエネルギー循環を担っており,地表には炭化水素の海があると予測される。地表面の温度は-179℃と極寒で,生命が存在するとは考えにくいが,前段階である複雑な有機物の合成は起きているかもしれない。その痕跡も残っている可能性がある。

 

 ホイヘンスはタイタンの大気を観測するために開発された。今年12月にカッシーニから切り離されてタイタンに接近,来年1月に大気圏に突入する。オレンジ色のもやの中を通って地表にぶつかるまでの3時間に,質量分析計で大気の成分を分析したり,カメラでメタンの雲や全景を撮影したりと,様々な調査を試みる。着陸機構は備えていないが,衝突した時に地面の固さを素早く測り,軌道周回するカッシーニに送り届ける。うまくいけば炭化水素の湖に飛び込み,周囲の様子を撮影したり深さを測ったりできるかもしれない。

 

 観測は始まったばかりだが,今のところ順調。今後,怒濤のような発見が報告されるはずだ。

著者

Jonathan I. Lunine

カッシーニとホイヘンスによる土星探査ミッションに参加する科学者。アリゾナ大学で惑星科学と物理学の教授を務め,理論天体物理学プログラムを率いている。惑星および惑星系の形成と進化、太陽系外縁部における有機物の特性,さらに生命が生存可能な世界が形成される過程を研究している。1985年,カリフォルニア工科大学でPh.D.を取得。著書に『Earth:Evolutionof a Habitable World』(Cambridge University Press, 1999)がある。

原題名

Saturn at Last!(SCIENTIFIC AMERICAN June 2004)

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