日経サイエンス  2004年1月号

特集:ロボットから人間を読み解く

“情”が作る 真のコミュニケーション

菅野重樹(早稲田大学) 尾形哲也(京都大学)

 「将来,ロボットに必要な機能は何か」と聞かれたら,多くの研究者は人間とのコミュニケーション能力だと答えるだろう。工場のロボットなら柵で囲い込めばよいが,一緒に作業をしたり人間をサポートするロボットではそうはいかない。では人間とロボットが心を通わすことは可能なのだろうか。

 

 私たちの研究室には,“感情”を表現するロボットWAMOEBA-2Rがいる。喜怒哀楽や体調などの自己状態を,液晶パネルや身体の動き,電子音や言葉などで不完全ながら表現する。こうしたロボットを研究するのは,人間とロボットの間で真のコミュニケーションを成立させようとすれば,知能や感情などの「心」を相手が感じ取れることが極めて本質的だと考えるからだ。

 

 自己保存と社会的相互作用という2つの欲求が,人間を他者とのコミュニケーションに向かわせる動機になっている。そこで私たちは人間や動物の自己保存本能の1つであるホメオスタシスを司る自律神経系と同様の仕組みをロボットの内部に組み込み,その活動に伴って自然に感情が表現されるようにした。

 

 ロボットの感情を読みとれるか,学生を使って実験したところ,ほぼ行動の理由を推測できた。これはモデル化した自律神経系・内分泌系の影響に基づいて,ロボットが周囲の環境や人間への適応行動をとっただけだ。それが結果的に人間に情緒的な反応を呼び起こす。こうした心の反応はロボットとのコミュニケーションの可能性を示唆するものと期待させる。

 

 

再録:別冊日経サイエンス179「ロボットイノベーション」

著者

菅野重樹(すがの・しげき) / 尾形哲也(おがた・てつや)

菅野は早稲田大学理工学部機械工学科教授。1985年の科学万博に展示された鍵盤楽器を演奏するロボットWABOT-2のほか,卵を手で割るWENDY,この記事に登場したWAMOEBA-2Rなど,ユニークなヒューマノイドを開発した。尾形は京都大学大学院情報学研究科知能情報学専攻講師。自律ロボットシステムの開発や人工感情,さらに人間とヒューマノイドの間におけるコミュニケーションの発達などを研究している。WAMOEBA-2Rの論文で2000年度の日本機械学会賞論文賞を菅野と共同で受賞した。

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