日経サイエンス  2004年1月号

特集:ロボットから人間を読み解く

機械はコツを身につけられるか

國吉康夫(東京大学)

 寝そべっていた状態から両脚を上げ,振り下ろす反動で起き上がる──。2003年9月12日,私たちはヒューマノイド(人間型ロボット)「Rダニール(R-Daneel)」の公開実験を行った。

 

 寝そべった状態から立ち上がるヒューマノイドはすでにいくつか開発されている。それらはプログラム通りに手や脚を動かすものだ。しかし,ダニールは人間に近い動作をする。

 

 起き上がりのように,線形方程式では表せない,異なった複数の動作が次々に現れるような運動や周期的でない運動にはどう対処するのか。また,複数の動作の境目はどのように決まり,どう制御すればよいのだろうか。私たちはこんな問題意識で研究を進めている。

 

 人間の起きあがり動作を調べると面白い現象が見つかった。動きの軌道がある局面ではいつも同じ位置に重なって収束し,別のところでは毎回バラバラだったことだ。ポイントを押さえ,そこさえきちんと制御すればよいことになる。これが「コツ」と呼ばれるものに相当するのではないかと考えている。ダニールは起きあがり動作のコツを習得させて実践した。

 

 コツは運動だけでなく,自分や他人の行為を認識するうえでも重要な意味を持つ。行為のところどころに現れる「目のつけどころ」に集中して情報処理をし,ほかの部分は分節点の位置を決めるためだけに“軽く流して”処理すればよい。因果関係や文脈に基づいた事象予測を手がかりに行為の分節点を検出し,そこで重点的に行為識別情報を抽出することができれば,ロボットに見まねをさせられる。

 

 私たちはさらに行為の節目を見抜く分節化をヒューマノイドで実現し,模倣学習がどう発展していくかを調べている。模倣といっても,単に相手の動きに漫然と反応している状態から,自分なりの試行錯誤を織り交ぜてその意味を知り,目のつけどころがよくなってより的確に模倣したり,覚えた行為を自由に組み合わせて利用したりといった具合に,さまざまなレベルに発展していく。この一連の発達のメカニズムを解明し,モデルを構築しようと取り組んでいる。

 

 

再録:別冊日経サイエンス179「ロボットイノベーション」

著者

國吉康夫(くによし・やすお)

東京大学大学院情報理工学系研究科助教授。工業技術院電子技術総合研究所(現在の産業技術総合研究所)主任研究官などを経て2000年から現職。実演による教示や観察に基づく協調など,知覚と行動を通じて人間と相互作用するヒューマノイドの研究に従事している。日本ロボット学会論文賞や国際人工知能学会論文賞などを受賞している。

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