日経サイエンス  2004年1月号

短期集中連載:ゲノムが語る進化の謎(1)

遺伝子の退化がヒトを生み出した

高畑尚之(総合研究大学院大学)

 哺乳類は2億年以上前に爬虫類から進化し,その後,多様化を進めてきた。その多様化に伴って新規に登場した遺伝子は,どのくらいあるのだろうか。例えば霊長類だけがもつ遺伝子,ヒトだけがもつ遺伝子はどのくらいあるのだろうか?実は「ほとんどない」というのが正解だ。ヒトのインスリン遺伝子とマウスのインスリン遺伝子では塩基配列が少し違うが,やはりインスリン遺伝子であることには変わりない(これを相同と呼ぶ)。ヒトとマウスではゲノムにある遺伝子の99%が相同で,これらは共通の祖先から受け継いだものだ。

 

 では,ヒトとマウスの違い,あるいは霊長類と齧歯(げっし)類の違いをもたらしているのは何だろう?私は,それは新しい遺伝子の獲得などではなく,むしろ遺伝子を失うことだと考えている。以下,具体例を挙げながら,ゲノム中の遺伝子が機能を失うこと,つまり「ゲノムの退化」がその種の進化を促したという一見逆説的な考えを紹介し,同時に環境との関連の重要性を論じていきたい。

著者

高畑尚之(たかはた・なおゆき)

総合研究大学院大学副学長,理学博士。京都大学理学部化学科を卒業後,化学専攻で同大学大学院の修士課程を修了。九州大学大学院に進み生物学専攻で博士号を取得。国立遺伝学研究所勤務を経て現職。専門は集団遺伝学。

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