日経サイエンス  2003年11月号

小脳の知られざる役割

J.M. バウアー L. M. パーソンズ(テキサス大学健康科学センター)

 小脳の主な働きは運動の制御だと考えられてきた。しかし最近の研究から,それは過去の常識となりつつある。知覚情報の統合や情動の制御など,その名に反して小脳が受け持つ役割は大きい。

 

 小脳は脳の下部に位置し,その複雑な神経回路の構成は脊椎動物の進化の過程でほとんど変わらずに保たれてきた。ヒトの場合,小脳は中脳よりも大きく,重要な機能を数多く担っている大脳に次いで2番目に大きな脳だ。大脳皮質と同様に,小脳も幾重にも折りたたまれており,表面にできたひだの数は大脳皮質よりも多い。多くの哺乳類では,ひだのある脳組織は小脳だけだ。ヒトの小脳を平たく延ばすと,その面積は大脳皮質を延ばした面積の半分以上になる。

 

 最近の研究によって,小脳はさまざまな場合に活性化することがわかった。運動とは直接関係のない局面でも活発に働いている。また,小脳のある部分が損傷すると運動機能とは関係のない予想外の障害が生じ,とりわけ知覚情報を素早く正確に認識する機能に障害をきたすこともわかった。

 

 短期記憶や注意力,情動の制御,感情,高度な認識力,計画を立案する能力のほか,統合失調症(分裂病)や自閉症といった精神疾患と関係している可能性も示された。小脳は筋肉に動きの指令を出すというよりも,入ってきた感覚信号を統合する役目を果たしているようだ。

 

 動物実験で若い個体から小脳を取り除いても,すぐにわかるような行動障害はほとんど起きない。このことから,脳の他の部位が小脳の機能を学習し,その大部分を補っていると考えられる。

著者

James M. Bower / Lawrence M. Parsons

2人はサンアントニオにあるテキサス大学健康科学センターのリサーチ・イメージング・センターに所属している。バウアーは計算神経生物学,パーソンズは認知神経科学の教授だ。バウアーはテキサス大学サンアントニオ校にあるカハール神経科学センターの教授も併任しており,Journalof Computational Neuroscience誌や計算科学会の年次国際大会を立ち上げた。科学教育にも長くかかわっており,児童教育向けのウェブサイト(http://Whyville.net/)作りにも携わった。パーソンズは米国科学財団の認知神経科学プログラムの責任者。HumanBrain Mapping誌の編集委員を創刊以来務め,国際音楽研究財団の理事でもある。

原題名

Rethinking the "Lesser Brain"(SCIENTIFIC AMERICAN August 2003)

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