日経サイエンス  2003年10月号

魚が消える?

気候変動が左右する増減サイクル

渡邊良朗(東京大学海洋研究所)

 世界的にさまざまな種類の魚の漁獲高が減少している。乱獲や環境破壊といった人為的影響が原因だと考えられているが,最近の研究による魚の数ははるか昔から周期的に増えたり減ったりしているのだ。

 

 文献を調べると,日本近海のマイワシは50~70年周期で豊漁・不漁を繰り返している。マイワシは1歳になるとそのまま親になるまで生き残る確率が高くなる。漁獲高は1988年から急減しており,1歳魚の数もほぼ連動して減っている。しかし産卵量は90年代前半まで高い水準にあり,親魚は減っていないので,乱獲が原因ではない。

 

 このほかの種類でも漁獲対象となる総数(資源量)は自然変動している。では,その原因は何か。有力視されているのが地球規模の気候の変化によって生態系も変化する「レジームシフト」という考え方だ。

 

 例えば,太平洋の気象がほぼ25年ごとに温暖期と寒冷期を繰り返し,それがイワシやカタクチイワシの資源量にも影響を及ぼしている。北太平洋では1950年代から70年代前半は海水温が平均よりも低くカタクチイワシが増え,70年代後半から90年代半ばまでは暖かくマイワシが増えた。

 

 日本近海のマイワシについて言えば,主な原因が特定されつつある。北太平洋に位置するアリューシャン低気圧の影響だ。その活動が低下すると,親潮の南下する勢力が衰えるとともに,黒潮の北限位置が北上してその流量が減る。海表面の温度が上がって深層から窒素やリンなどの栄養塩の供給が減った結果,プランクトンの発生が減り,仔魚や稚魚の生存率が急激に悪化したと考えられる。

 

 ただ,このまま放置していればよいわけではない。激減しているマイワシなどは成熟する前,つまり子孫を残す前に水揚げされてしまう可能性がある。こうした魚は漁獲制限をすべきだろう。

 

 いずれにせよ,自然変動を考えた漁業資源の管理に改めるべきだろう。今は「漁業をやらない限り,資源量は不変だ」という20世紀前半の理論に基づいており,それでは資源管理が破綻するのは当たり前だ。

著者

渡邊良朗(わたなべ・よしろう)

東京大学海洋研究所海洋生物資源部門教授。水産学博士。専門は魚類の繁殖生態と初期生態や資源量変動機構の解明。1985年~1986年に米国カリフォルニア州の海洋漁業局南西水産研究所でカタクチイワシの初期生態に関するプロジェクトに参加。1992年から水産庁中央水産研究所でマイワシの初期生態と資源量変動に関する研究に従事し,1995年に東京大学海洋研究所に移り,ニシン科魚類の繁殖生態と初期生態の比較生態学的研究を展開している。

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