日経サイエンス  2003年9月号

世界の“なぜ”を読み解く スケールフリーネットワーク

A.-L.バラバシ(ノートルダム大学) E. ボナボー(アイコシステム)

 私たちを取り巻く社会にはさまざまな“ネットワーク”が存在する。インターネットはもちろん,人間関係や企業の提携関係,俳優の相関図,航空機の路線,電力線などが挙げられる。さらに,生物の本質もネットワークだといえる。脳は軸索によって接続された神経細胞のネットワークであり,神経細胞自体も生化学反応でつながった分子のネットワークだ。SARSのような感染症,噂や流行も人間関係のネットワークに沿って広がる。複雑に込み入った食物連鎖や生態系は種のネットワークといえるだろう。

 

 こうした複雑なシステムは多種多様でばらばらに見えるが,実は重要な特性を共有している。それは多数のサイトとつながった比較的少数の「ノード」に支配されていることだ。「ハブ」と呼ばれる一部のノードは膨大な数のリンクを持つ一方で,ほとんどはごくわずかなノードとしかつながっていない。ハブの中には,数百,数千,中には数百万ものリンクを持つものもある。こうした点でスケール(縮尺)が存在しない(フリー)ように見える。

 

 スケールフリーネットワークは重要な性質をいくつか持っている。その1つとして,偶発的な障害に対しては非常に強いことが挙げられる。高速道路網のようなランダムネットワークはノードがいくつか破壊されると,システムは通信不能な孤島に寸断されてしまうが,スケールフリーネットワークではいくつかの経路が残り続ける。実際,インターネット上では常に数百台のルーターが故障しているが,大きな混乱はほとんど生じない。ただハッカーによるサイバー攻撃のように組織的な攻撃にはからっきし弱い。

 

 こうした性質を理解すれば,さまざまな分野に応用できる。例えば,インターネットのようなネットワークをコンピューターウイルスから守る効果的な戦略を編み出したり,病巣だけをたたく医薬品の開発に役だったりするだろう。また,消費者の購買行動を科学的に理解できるようになる可能性もある。

 

 さまざまな現象をネットワークの視点で捉えると,新たな発見があるかもしれない。

著者

Albert-Lazlo Barabasi / Eric Bonabeau

2人はインターネットから昆虫のコロニーまで,さまざまな複雑系の挙動や特性を研究している。バラバシはノートルダム大学の物理学教授として複雑系の研究を指揮している。『新ネットワーク思考──世界のしくみを読み解く』(NHK出版)の著者でもある。ボナボーはマサチューセッツ州ケンブリッジにあるコンサルティング会社アイコシステムの首席研究員だ。

原題名

Scale-Free Network(SCIENTIFIC AMERICAN May 2003)

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