日経サイエンス  2003年9月号

自己修復コンピューターシステム

A.フォックス(スタンフォード大学) D. パターソン(カリフォルニア大学))

 コンピューターの性能は過去20年間に1万倍も向上した。実際,1983年には1年もかかっていたような大量のデータ処理が,今日では1時間以内に実行できる。処理能力では,当時のデスクトップコンピューターは現在の携帯情報端末にも及ばない。

 

 しかし,この成果は大きな代償をともなう。コンピューターシステムが複雑になるにしたがい,動作が不安定になり信頼できなくなってきた。コンピューターにかかわる障害は日常茶飯事だ。パソコンが壊れたり,画面がフリーズすることはしょっちゅうだし,インターネットのサイトに接続できなくなることもよくある。性能を上げるためにソフトウエアをバージョンアップすると,一部機能は以前よりも悪くなる。さらに障害にかかわる費用も高額になっている。個人や企業にとって,システムの保守や修理,操作にかかる年間経費は,ハードウエアとソフトウエアの合計額よりもはるかに高い。

 

 スタンフォード大学とカリフォルニア大学バークレー校の私たち共同研究グループは,コンピューターのシステムダウンとオペレーター(システムの運用監視要員)の操作ミスは避けられないという事実を認め,システムの信頼性を高めるための新方針を打ち出した。コンピューターの故障をなくすのはおそらく不可能だ。だからそこに力を注ぐのではなく,障害が起こってもすぐに復旧するシステムの設計に集中したのだ。私たちはこのアプローチを復旧指向コンピューティング(ROC;Recovery-Oriented Computing)と呼んでいる。

著者

Armando Fox / David Patterson

2人は長くコンピューターシステムの信頼性を高める研究をしている。フォックスは1999年以来スタンフォード大学の助教授を務めている。カリフォルニア大学バークレー校での博士課程時代はブリューワー(EricA. Brewer)教授の研究グループに加わり,現在のクラスター化インターネットサービスの原型となるものを開発した。またその応用として,携帯情報端末のための画像表示ができる最初のウェブブラウザーなど,モバイル・コンピューティングに関する研究を行った。インテル社でマイクロプロセッサーの設計も行い,後にモバイル・コンピューティングのための小さい会社を設立した。マサチューセッツ工科大学とイリノイ大学で,電気工学とコンピューターサイエンスの学士号と修士号を取った。パターソンはコンピューターサイエンスの修士号と博士号をカリフォルニア大学ロサンゼルス校から受け,その後,同バークレー校の教授として過去の四半世紀を過ごした。マイクロプロセッサー基本設計の単純化の研究,高信頼性デジタル記憶システムの構築,および『コンピュータ・アーキテクチャ』『コンピュータの構成と設計』(邦訳はともに日経BP社)という古典的な共著の出版で有名。彼が最初に本誌に寄稿したのは20年前のことだ(「マイクロプログラミング」サイエンス1983年5月号)。

原題名

Self-Repairing Computers(SCIENTIFIC AMERICAN June 2003)

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