日経サイエンス  2003年9月号

クローンベビーはパンドラの箱か?

R.M. ヘニッグ(サイエンスライター)

 25年前の7月25日,世界初の“試験管ベビー”が誕生した。当時,人間の尊厳を脅かす行為と恐れられた体外受精技術は,現在ではごくあたりまえのように生殖医療に組み込まれている。
 今となっては,体外受精に対する恐怖心や憶測がばかばかしく思えるかもしれない。しかし,体外受精に関して挙げられてきたのとまったく同様の懸念の声が,いまヒトクローンについて再びわき起こっている。体外受精と同様にクローン技術も架空の世界から現実世界への転身を遂げるのだろうか。ヒトクローンも,いつか試験管ベビー誕生と同じく一般化するのだろうか。こうした問題に対し,体外受精の経験を生かして,下すべき決断を選択できるかもしれない。
 体外受精の最大の問題は,米政府が体外受精技術を封じたため,国は研究費を一切出さず,すべてが民間の費用で進んだことだ。その結果,体外受精は医療に必要なデータの蓄積や正しい評価のないまま,急速にビジネス化した。体外受精のリスクについてもごく最近までほとんど知られていなかったのが現状だ。
 こうした状況を考えると,クローン技術が同じ道を歩まないようにするには,単にクローンの研究を禁止するだけでは不十分であることがわかる。(編集部)

著者

Robin Marantz Henig

サイエンスライター。新作Monk in the Garden: the Lost andFound Genious of Gregor Mendel(庭の神父,グレゴール・メンデルの英知の再発見)をはじめとする7冊の著作のほか,NewYork Times紙やCivilization and Discover誌などでも活躍。アリシア・パターソン財団(AliciaPatterson Foundation)の特別研究員で,全米書籍批評家協会賞(National Book CriticsCircle Award)の候補者にも選ばれている。現在,夫であるコロンビア大学政治科学教授のジェフリー・ヘニッグ(JeffreyR. Henig)と2人の娘とともにニューヨーク市に暮らす。次回作Pandra's Babyでは体外受精をめぐる初期の研究に迫る。

原題名

Pandora’s Baby(SCIENTIFIC AMERICAN June 2003)

キーワードをGoogleで検索する

クローン人間人工授精試験管内授精減数手術代理出産