日経サイエンス  2003年7月号

最古の生命を追う

S.シンプソン(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

 先史時代の生物は,自らの存在を示す無数の証拠を太古の岩石に化石として残している。氾濫した川にのまれた恐竜の巨大な大腿骨は,今では砂質泥岩に埋もれている。かつて沼地に茂っていた熱帯性シダのぎざぎざした葉は,漆黒の石炭層の間に挟まっている。泥質の海底にうごめく虫たちが掘った巣穴は,鋼色の石灰石のレース模様となっている。こうした生命の痕跡はまわりの岩石と明瞭に区別できる。しかし,古い時代の生物ほど,その痕跡は判別しにくくなる。

 

 岩石は何百万年もの間,地下深くに埋もれてはまた地表で削られてきた。いわば繰り返し圧力鍋で調理されてきたようなものだ。そのため細胞化石を含む岩石が今日,私たちの手が届く地表近くにある確率は非常に低い。となると,地質学者はそうした化石の代わりに他の手がかりに頼らざるをえない。これはさらにかすかな痕跡で,「生命痕跡」と呼ばれる。生物起源の物質に特徴的な偏った化学組成をした炭素の小さな粒などだ。

 

 10年前,高倍率顕微鏡のおかげで34億6500万年前という驚くほど古い地球岩石中に,化石らしきものの存在が確認された。単純な無機分子が初めて自己複製し,選択的に環境と相互作用を始めた時期,つまり,生命誕生の瞬間に非常に近い時期の化石と思われるものが見つかったのだ。

 

 さらにそれより少なくとも3億6500万年古いとみられる生命の痕跡が報告された。炭素試料の化学組成の微妙な違いを測定する新しい技術によって,1996年にこれが裏付けられたかに思えた。また同じ年,南極大陸で発見された39億年前の火星起源の隕石に生命の痕跡が見られたという発表があり,科学者たちは色めきたった。岩石中の微かな痕跡から過去の生命の存在を発見できるという確信はさらに強まった。

 

 しかし華々しい発見の栄光は長くは続かなかった。火星起源の隕石から得られた証拠は直後から批判の集中砲火を浴び,火星生物の徴候は,ひとつを除いてすべて否定された。一時は広く受け入れられていた地球の初期生命の証拠に対する信頼も,2002年の初めには同じように崩れてしまった。いくつかの研究によって,グリーンランドとオーストラリアで発見された岩石中の地球最古生命の記録の解釈に強い疑問がもたれるようになったのだ。

原題名

Questioning the Oldest Signs of Life(SCIENTIFIC AMERICAN April 2003)

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