日経サイエンス  2003年3月号

南極の氷が語る海面上昇のシナリオ

R.A. バインドシェードラー(米航空宇宙局ゴダード宇宙飛行センター) C. R. ベントレー(ウィスコンシン大学)

 1万2000年ほど前,最後の氷河期(最終氷期)から脱した地球では,タイタニック号に衝突したのと同じぐらいの大きさの氷山が,巨大艦隊のように次々と北大西洋に集結した。当時,欧州と北米の半分を厚く覆っていた巨大な氷床から,数多くの氷山が分離して海に流れ込んでいた。海面は水中に沈んだ氷山の分だけ高くなるので,数十年間にわたって毎年1m以上のペースで海面が上昇し続けた。

 

 こうして北半球の氷は解けたが,南極大陸の氷はほぼ完全に残り,現在では地球上の氷の90%を占めている。だが,過去30年間に行われた何十もの研究によって,南極大陸の西半球側である西南極を覆っている氷(西南極氷床)が,北半球と同様に消滅する可能性があることがわかり,警告の声があがってきた。この氷床には300万km3を超える淡水が氷として貯留されている。これがもし完全に崩壊して海に流れこんだら,地球の海面は約5m上昇するだろう。そうなれば海岸沿いの多数の低地が水没するため,20億人近い人々が内陸へ避難しなくてはならない。

著者

Robert A. Bindschadler / Charles R. Bentley

2人は,西南極氷床とその下にある大陸の調査に専念してきた。バインドシェードラーはNASAゴダード宇宙飛行センターに在職して23年になる。南極大陸での野外調査のリーダーを12回務めた。現在はゴダードの上級研究員として,氷河研究のために多数のリモートセンシング技術を開発している。衛星画像を使った氷の速度や標高の測定,マイクロ波放射計での氷床の融解のモニターなどがある。ベントレーは初めて訪れた西南極に2年1カ月滞在し,その間に国際地球観測年(1957~58年)の遠征の一環として,南極氷床を横断して行われた調査隊のリーダーを数回務めた。1998年に引退するまで,ウィスコンシン大学マディソン校の地球物理学の教授として,定期的に南極を訪れていた。

原題名

On Thin Ice?(SCIENTIFIC AMERICAN December 2002)

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