日経サイエンス  2002年12月号

特集:時間とは何か

心の時間

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 目覚まし時計で時間どおり目覚め,一日を時間どおりに過ごす――会議,他社への訪問,電話での打ち合わせ,昼食会などは,すべて決められた時間に始まる。他人の行動に自分の行動を合わせることができるのは,みんなの時間計測システムが同じだからだ。つまり,日が昇り,日が沈むという動かしがたい一日のリズムに基づいて私たちは動いているという暗黙の了解がある。進化の過程において,人類はこの昼と夜が交互にあらわれるリズムに合わせて体内時計をリセットする仕組みを発達させてきた。体内時計は脳の視床下部にあり,いわゆる「体の時間」を支配している(K.ライト「生物がもつ4つの時計」参照)。

 

 しかし,まったく別の種類の時間が存在する。「心の時間」だ。これは私たちが時間の経過をどのように感じるかや,出来事の起こった順番をどのように把握するかを決めている。機械の時計は常に変わらぬリズムで時を刻むが,私たちは時が経つのを速く感じたり遅く感じたりする。このときの時間スケールもさまざまだ。10年単位のこともあれば,季節や週,時間のときもあるし,音楽を聴いているときの一瞬の間合い(音符の長さや音符と音符の間の静寂の時間)だったりする。私たちは体験した出来事を心の年表の中におき,それらがいつ,どのような順番で起きたか,どのような時間単位の出来事なのかを判断する。これはわずか数秒の出来事でも,一生にわたるような出来事でも同じだ。

 

 心の時間が体の時計とどうかかわっているのかはわかっていない。心の時間は1つの計時システムに頼っているのだろうか。それとも,経過時間の認識と出来事の順番は情報処理によって決まるのだろうか。もし後者が正しいならば,心の時間は私たちが出来事に向ける関心と出来事が起こった時の感情によって決まることになる。また,こうした出来事を私たちが脳に記録する方法や,それらを感知したり思い出したりするときに私たちが下す推測によっても左右されるはずだ。(本文より)

 

 

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著者

Antonio R. Damasio

アイオワ大学医学部M. W. バン・アレン記念教授兼神経学部長。カリフォルニア州ラホーヤにあるソーク研究所生物学研究部助教授でもある。心と行動の神経学的異常の研究で知られている。著書に「Descartes'Error(邦訳『生存する脳』講談社,本体2800円)」と「The Feeling of What Happens」があり,3作目の「Lookingfor Spinoza」がもうすぐ刊行される。

原題名

Remenbering When(SCIENTIFIC AMERICAN September 2002)

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健忘症側頭葉海馬