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日経サイエンス 2002年12月号
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特集 時間とは何か
プロローグ 時間とは何か
G. スティックス
200年以上も前に,フランクリン(Benjamin Franklin)は時間の経過を金銭と同一視する今や有名な格言(「時は金なり」)を生み出した。新たな千年紀(およびそれに先立つ数十年間)はこの言葉を実感させるものとなっている。21世紀の時間は,過去の時代における化石燃料や貴金属のようなものだ。この必要不可欠の希少資源は絶えず計られ,値がつけられ,テラバイトのデータを毎秒ギガビットでやりとりする生き馬の目を抜くような経済活動をさらに加速している。
英国のある経済学者は,フランクリンの格言に定量的な裏付けを与えて2千年紀の時代精神をとらえようとした。ウォーリック大学のウォーカー(Ian Walker)が導き出した公式によると,3分間の歯磨きは45セントに相当する。これは,平均的な英国人がその時間仕事をしていれば得られたはずの報酬(税金・社会保障費差引後)の額だ。手作業による30分間の洗車は,金に換算すると4.5ドルになる。
こうした時間の金銭への還元は,フランクリンの言葉を極端に拡大解釈しすぎているかもしれない。しかし,時間の商品化は動かしがたい事実であり,物事の経過のとらえ方が根本的に変化したことによる。
人間の基本的な欲求は何十万年も前の旧石器時代以来変化していない。人間の活動の大部分は,フリントストーン(石器時代を描いたアニメーション番組の主人公)と同じ,食べる,殖やす,戦う,逃げるという衝動が中心になっている。こうした原始的衝動が変わらない一方,人間の文化は,先祖の狩猟採集民がサバンナを徘徊していた頃から現在までの間に,次から次へと大変動を経験してきた。石器時代から情報化時代への長きにわたる変遷におけるおそらく最も根本的な変化は,主観的な時間体験にかかわるものだ。
1つの定義によれば,時間とは,過去から未来へと事象が次々に続く連続体だ。今や果てしなく多くの物事が,1年とか1ナノ秒といった一定の時間内に詰め込まれるようになっている。現代は一歩でも人に先んじて出し抜こうとするゲームの様相を呈している。
グライク(James Gleick)は著書「Faster:The Acceleration of Just About Everything」の中で指摘している。1980年代にフェデラル・エクスプレスの宅配便が普及する以前には,ビジネス文書のやりとりでは通常,小包を「絶対間違いなく翌朝に」配達することは求められなかった。
当初,顧客はフェデックス便を利用すれば他より優位に立てた。しかしほどなく,誰もが荷物が翌朝に届くことを期待するようになった。グライクは,「誰もが翌日配達便を採用したとき,ふたたびみな平等になり,結局みな一様にペースが速められただけだった」と記している。
インターネットの出現により,フェデックス便を翌日まで待つ必要すらなくなった。インターネット時間では,あらゆることがどこでも同時に起こる。ニューヨークであれ,セネガルのダカールであれ,インターネットに接続したユーザーは,同じ瞬間にウェブページの更新を確認できる。時間は事実上,空間を征服した。(本文より)
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