日経サイエンス  2002年11月号

糖鎖をあやつる 新薬開発の最後の決め手

T.メーダー(サイエンスライター)

 人間のゲノムが解読された現在,人々の興味はプロテオームへ移ってきている。プロテオームとは,私たちの細胞に保存された遺伝子という青写真から作られる全タンパク質を指す。体内の仕組みのほとんどはタンパク質が動かしているので,タンパク質の振る舞いを理解することは,病気を治療するアイデアにつながる。

 

 しかし,生きている細胞は遺伝子とタンパク質だけでは語りつくせない。糖が連なった糖鎖と,脂肪を構成する脂質,この2つの分子も重要な働きをしている。これらの物質もまた,身体の仕組みを知り,病気を治療するうえで必要不可欠だ。特に糖は驚くべき働きをしている。

 

 かつて糖は,エネルギーとなるグルコースやグリコーゲンが主なもので,組織を形成する要素ととらえられていた。だが,今では糖鎖が細胞表層のタンパク質や脂質と連結している様子が明らかになり,こうした分子が細胞間の情報伝達に影響を与えたり,免疫システムに関与していることがわかってきた。また,さまざまな感染症や,ガンの進行の引き金になることもある。糖鎖はある細胞を他の細胞から区別する助けになったり,体内を動き回る細胞へ目印を送る働きもする。これらの分子は身体のいたるところにあるため,免疫系や周囲の細胞にしてみれば,細胞はまさに糖鎖でおおわれているといってよいだろう。

 

 近年,糖の重要性を理解し,糖鎖構造の詳細や活性について学び,その成果を新しい医薬の発見に結びつけようという動きが活発になってきた。(本文より)

著者

Thomas Maeder

サイエンスライター

原題名

Sweet Medicines(SCIENTIFIC AMERICAN July 2002)

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

ポストゲノム複合糖鎖糖質科学グリコミクスプロテオグリカンコンジュゲート医薬細胞間コミュニケーション